第60話 勇敢なる者
「お前ら2人だけで俺を倒せるとでも思っているのか?」
拳を前に出し、戦う気満々の町長が言った。どうやら武器を使わずに戦うみたいだ。だが、町長の身体から黒いオーラが滲み出ている。俺は何度も見た事がある魔力のオーラだ。
「お前、まさか魔族なのか?」
俺が見たのはこの前のパツール村と、昔の戦争。あの紫の魔族と同じモノを感じるし、あの黒のバケモンの様な力の一端を感じる。威圧感は足りないが、同系統の質だ。第6魔法『闇』の魔力を感じるんだ。
「ギャハッ、ギャハハハハッ‼ 俺が、俺ごときがあの方と同じ種だと? 笑わせるなッ‼ あのお方こそが我らの救世主なのだッ‼ あのお方こそが神ッ‼ 唯一の種なのだッ‼ 人間風情が偉そうになるなッ‼」
お前も亜人とはいえ人間だろう? 何を言ってるんだ? それよりこの町は既に魔族に乗っ取られているな。このやり口、似ているしな……あの町長の崇拝ぶり、アレは……
「セドラ、か?」
「ッ!? 何故その神名を知っているッ‼」
どうやらここは俺にとってもアタリの様だ。あの女の息がかかっている。そして町長の口ぶりから洗脳されている事が分かった。どうにか洗脳を解いてやりたいが、どうすればいい? ぶん殴れば治るか?
だが、町長だけとは限らない。どこのどいつが洗脳されてるかが分からねぇ。つい今町長の洗脳に気付いたんだ。普通に暮らしていたら分からねぇぞ?
「あのお方の神名を知っているとはただの大使ではないな? 同士か敵か……いや、どちらでも構わない。私の目的の為に死んでもらおうかッ‼」
町長は俺めがけて突っ込み、大振りに腕を振り下ろしてきた。その動きは大きすぎて避けるには十分すぎる早さだった。
「なんだ? そんな大振りで、俺--」
ズガァンッ‼
「ぅおっ!?」
町長の拳は地面にめり込んで大きな地割れを起こしていた。その衝撃で地面が揺れた。その一瞬の油断を町長が見逃す筈がなかった。
「海仙闘 体術スキル『深蒼』ッ‼」
町長の叫びと共にスキルが発動し、拳が青く光る。その光はどんどん拳に収束されていく。避ける余裕は無いか? どんな攻撃か分からねぇしな
「盾技スキル『皇盾』ッ‼」
俺のスキル効果により眼前に大きな盾が発現する。俺の盾技の中でも最高の強度を持つシールドだ。欠点は正面以外は守れない事だが、防げるだろう。
「なかなか頑丈そうな板だなッ‼ だが今の俺には、通用せんぞぉぉッッ‼」
それは一瞬、一閃だった。
気付いた時には俺の盾は砕かれ、かろうじで避けた俺の脇を五指が抉った。傷は浅いモノの、どうやら見た目通りの強者らしい。俺も流石に本気を出さないとヤバそうな相手だ。
「だ、大丈夫ですかッ!? エリ、カイン殿ッ‼」
おいおい、俺の名前間違えんなよ?誰だよエリなんとかさんって?それよりはこいつだろうが。
「か、カイン様ッ‼地下への入り口を見つけましたッ‼」
なんつータイミングだよ。俺はカイン殿だっての!だがいいタイミングかもな? もし俺の推測が正しければここにいるだろうよ。俺達の救世主様が、いや、俺達の聖女様が、な。
「フンッ‼ 見つけた所でお前らは全員俺様が消してやるッ‼ 出来るなら俺様から白いガキを救って見せろッ‼ 無理だろうがなッ‼ ギャハ、ギャハハハハッ‼」
あー、ここにいる訳ね。力で救って見せろって? 馬鹿にすんなよ?
「おい、ゴルディ。お前も聖女様を急いでここに連れてこい。それだけで全てが終わる。それまでは俺が相手をしとくわ」
「ハッ‼ 早急にッ‼ 行くぞッ、お前達ッ‼」
「「「ハッ‼ こちらですッ‼」」」
ゴルディ達に任せてどれくらいで帰ってくるか? 10分くらいか? 30分か? 倒すのは簡単だが、聖女の力を確かめておきたいしな。
「おい、貴様。俺とサシで相手になるとでも思ってるのか?」
「ハッ‼ 本気で言ってんのか? 間違えではないが、意味が違うぞ? お前が俺の相手になるとでも思ってんのか?」
俺の本気はそこらの有象無象とは違うぞ?
「第5魔法、『無』……【勇敢なる者】」
俺の身体を薄く白い膜が覆う。この力を使う時がまた来るとは、な。また世界を救う時が来たって事なんだよな?
今度は、今度こそは守って見せるさ。
俺は目の前の魚人を睨みつけた……




