第59話 どうしたんだ町長殿
~カイン~
「そこのヒューマンはなんだ? 何故ここにいる?」
俺達はアタリと思われる町長の家へ押しかけている。そして今、俺の存在に疑問を持っている町長。当然疑問に思うだろう。使用人なら後ろで立っている筈だからな。だが、俺は侯爵の横でソファーに座っている。つまりは侯爵と同等かそれ以上の存在という事だ。しかし今は俺の素性を明かすつもりはない。
「町長殿、この青年はミッズガルズから来られた王国の大使様だ。新たに見つかった白の聖女様を迎える為にこの町に来たそうだが、誘拐にあった為にこうして調査の協力を願いに来たそうだ。そもそも聖女様は私の客人としてもてなそうと屋敷に案内したのだが、着いて早々屋敷が襲われたものでな。私の方の用件も概ね一致したのでこうして2人で訪問したのだ」
「ふむ。そうか、災難だったな。しかし王国の……」
一応はウソなんだけどな? 嘘と真実を混ぜ合わせて、信憑性を上げてコイツを騙すつもりなんだ。ちなみにウソは保険も兼ねて俺が考え込んだモノだ。それを侯爵に言わせることも計算の内だ。しかし、よく噛まずにぺらぺらと言えるもんだ。さすがは侯爵様、か?
「えぇ、この方は今この場の誰よりも偉い立場のお方。王国の代弁者の様な方なので失礼のない様に頼む。それで、捜索と救助の協力を願いたいのだが?」
「あぁ、協力は約束しよう。しかし今は腕の立つ者達が別件の仕事でいなくてな。帰ってき次第、行かせよう」
別件の仕事? この家を守る者が1人もいない様だが、それ程までの仕事という事か? もし獣人6人なのだとしたら嫌な予感がするな。
「おぉ、ありがたい。町長殿の力があれば見つかるであろう」
「あぁ、大船に乗ったつもりでいてくれ。ただ、船で送られたら手が出んぞ? 海は私の管轄外だからな?」
ふ~ん? なるほど、ね。海は管轄外か。海へ出た者には私は手を出さない、っと。なにか手慣れている匂いがするな?
「あー、オホンッ。町長殿? ひとつお聞きしてもよろしいか?」
「なんなりと、大使様」
俺の言葉に驚き頭を下げる魚人町長殿。えらく素直に受け入れたものだな? 俺は大使なんかじゃねぇっつーのに。まぁ、嘘だから本当の事は言えないが。
「全然関係ないのだが、この町は素晴らしい程人々が生き生きしている。だが、町の外に住んでいる者がいるようだが、どうしてだ? 受け入れないのか?」
まぁ、今現在どうでもいいような質問なのだが。大使らしく気になる演技を、ね? 実際エヴリンのような子もいたわけだしな。本当は目的のある質問なんだけどな?
「あぁ、あの者共は町への税を支払えない者達なのでね。働かざる者に住む資格はないかと。それでも町の近くに住むことに咎めはしておりません。人々は皆平等ですからな。しっかりと働いてなすべき事をすればいつでも受け入れますとも。特別扱いは民の反感を買いますからな」
へ~、意外にしっかりとした答えだな。別に悪いわけではない。大きな町程その線引きをしっかりとするべきだ。そういう意味では間違えてないな。生きる意志があれば平等というのは俺も共感出来る。これは差別ではないしな。
しかし違和感、だな。何故ここまでの答えを持っていて仕事を斡旋しない? 働かそうと動かないのか? 全てを人々の意思に委ねるのか? 上に立つ者なら道を作ってやろうと思わないのか?
ただの思想家なのか? もしくはそれがこの町の闇に繋がるのか? 俺はこの質問で疑惑を覚えた。
そもそも完全な人なんていないだろう。どこかで必ず出来ない事があるモンだ。しかし、偏り過ぎている。平等だと言い張る割に平気で下の人間を切り捨てている。俺の故郷が誰もが平等だったから違和感を感じただけかもしれないが。アタリだと分かって来ているからか、陰を感じてしまう。
「そうだな。生きる意志を持たなければ民としての価値がない。お前の答えは間違えてないだろう。では、侯爵。聖女様の話を進めてくれ」
「ハッ。町長殿、白の聖女様は見目麗しいお方だ。どこにいても目立つ筈だ。だがこの町の誰もが見ていないという。何か心当たりはあるだろうか?」
「この町にもういないという事では?」
「船着き場の衛兵も町の門番も見ていない様だが、どこかの家にでも匿われていたりしないだろうか?」
「も、もう船で密航でもされたのではないか?」
ん? どうした? 町長殿? 顔色が変わってきたようだぞ?
「船は出していないだろう? 襲撃があったあの日、私が即刻出港を止めたからな?」
「ど、どこかの家の地下にでも隠していると言いたいのか? 悪いがこの住宅地の家の数は1000を超えるぞ?」
ほー。それは答えじゃないのか? どうしたんだ町長殿? 身体から塩水が噴出し始めたぞ?
「そうか! 地下がある可能性もあったか! 道理で見つからないわけだ。この家以外もう捜し終わった筈だからな。流石はこの町の町長殿だな! 盲点であったッ!」
……えらい調子いい演技だな? 何か町長殿に恨みでもあったのか? ほら見てみろよ? 町長殿の目が海でもないのに泳ぎだしたぞ?
「ッ!? もしや全て……? そうか、なら話は終わりだな」
観念したのか町長殿は立ち上がり、笑い出した。
「……ギヒッ、ギャハッ、ギャハハッ! そうだ、私達の仕事だッ! 私達があのお方に依頼されたお仕事なのだよッ‼ それに私は侯爵、お前を消したかったんだッ‼ 金も入る、お前も町から消える、あのお方に気に入られるッ‼ 素晴らしいお仕事だッ‼ 邪魔するお前らは、この場で消えてもらおうかッ‼」
ついには吹っ切れた町長殿。一体どうしたんだ町長殿? まぁ、ここがアタリだと分かった以上、俺もやらなければならない。
「侯爵と俺がコイツの相手をするッ‼ お前らはこの家を、地下の入り口を探せッ‼」
「「「はいッ! かしこまりましたッ‼」」」
ここまで無言で立っていた侯爵の使用人に命令した。さて、どうなることやら。目の前の魚人は見た目通りなら強そうだ。
本気、出そうかな?




