第57話 6人の獣人
ったく、なんだったんだ? あの変態はッ!?
私はエヴリンを南門へと送りながら先程のアレを思い出していた。奇抜と言っていいのか分からない変態。オカマと表現するには難しいハードさ。
今の私には表現できる言葉が無い。私には一種の魔王の様に見えたぞ?
それはさておき、もうすぐ町の門が見えてくる筈だ。門まで送り届けたら大丈夫だろう。送った後は住宅街、だな。
この後の事を考えながらも、私は歩きながらエヴリンの事も考えていた。
もともとユウを探す最中に起こっていたイザコザだったが、結果的には犯人と思われる獣人の情報を得ることが出来た。
悪いのだが、エヴリンが巻き込まれていて良かったと思っている。せめてもの詫びとして送っているという事は口が裂けても言えない。
そもそも……ユウとは仲良く話していた少女だが、私にとってはどうでもいい少女なんだ。つい最近出会ったばかりの少女なんだぞ?
思い入れなどまるでない。可愛らしいとは思うが、所詮は赤の他人。そこら辺にいる子供と変わらない。家族の為に頑張る姿に胸を打たれたが、エヴリンはエヴリンだ。それ以上の感情は今は無い。
それに私の義妹、ユウとは違うんだ。そもそもユウは私にとって、他の子供とは『何か』が違う。『何か』とは、もちろん義理の家族という意味ではない。
『何か』の事は今の私にも分からないんだ。
見た目が可愛いからか? 人の為に頑張っているからか? 第7魔法を使えるからか? いつも危なっかしくて心配だからか? ルナというセイレイがいるからか?
答えは見つからない。ただ、ユウの『何か』に惹かれているみたいだ。同じ年の子供に同じ感情は抱かないだろう。ユウという存在が私を虜にしている様なんだ。私はユウに見てもらいたい。私はユウに頼られたいんだ。それ程までにユウに依存している。自覚はしているんだ。でも悪い様には思わない。私はユウと共にありたいと、心から思っている。
だから、今はユウ以外の子供に興味はない。興味はないが、ユウと仲がいい存在は無下には出来ない。それは私のユウの為だから……
「アビゲイルさん? アビゲイルさん? 難しい顔してどうしたの?」
考え込み過ぎていたようだ。エヴリンが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「あ、あぁ、なんでもない。あそこの広場で大丈夫か?」
視線の先には町の入り口、噴水広場があった。あそこならエヴリン1人でも大丈夫な筈だ。エヴリンは笑顔で「ここまで助けていただいてありがとうございました」と答えた。
興味がなくても、人助けというものは嫌いではない。だから私は癖で、「構わない。困ったことがあればまた頼ってくれ」と言ってしまう。誰かの役に立てるという喜びを知っているから。
噴水広場に着き、私が別れの挨拶をしようとしたところでまた問題が起きた。後ろから声を掛けられたんだ。
「そこの可愛い青緑のお嬢ちゃん? さっき君に似たお母さん? が心配そうに門の外にいたよ? 外は危ないから一緒にお母さんのいた所まで送ろうか?」
どうやらエヴリンへ声を掛けたみたいだ。鎧を着た豹の獣人が親切に教えてくれた様だ。町の外にいたら冒険者だったら気になるよな? 私もエヴリンの家の事情を知らなかったら心配した、かもしれないな。だが、何か怪しいな? 何故親切に外まで? むぅ?
しかし、エヴリンは私の服を握りしめて背後に回り込んだ。
「う、嘘です。嘘です。私のお母さんは目が見えないんです! あなたは誰なんですか? なんで私に--」
「あー、ウゼぇ。素直に着いて来いよッ‼」
豹の男は急に態度を変えてエヴリンの腕を掴んだ。そしてそのまま歩き出そうとする。私の事を気にもせず。
「おい、待て貴様。その子を何処へ連れて行くつもりだ」
「誰だテメェ? ……お? なかなか上玉だが今日は残念ながら相手出来ねぇなぁ? 俺達は仕事獣人だからよぉ? ちゃんと仕事しないと気が狂っちまうんだ」
仕事? エヴリンはこの男の事を知らないようだが? もしやエヴリンを連れて行くという仕事、なのか? それに気が狂うとは? もしかしてコイツ……?
「最近この町で真っ白な可愛い女がいたと噂を聞いたのだが、どこに行けば会えるか知っているか?」
この男の反応次第では身振りを変える必要があるな。
「……俺は見てねぇな? そんなガキなんてこの町にはいねぇぞ? それより俺の仕事の邪魔するなッ!」
「きゃッ!? あ、アビゲイルさんッ‼」
男は乱暴にエヴリンの腕を引っ張った。しかし、そうか。ガキ、か。色々と聞かせてもらおうか? 私は愛刀のロングソードを抜き、青い腕輪を見せつけた。
「今この場で、侯爵の代行により悪を粛正するッ‼ 周りの方々は危険なので下がっていただきたいッ‼」
私の口上により周辺の人々は離れていく。どうやらこの腕輪は思っているより効果があるようだ。いや、ただ危ないから避けただけ、か? どちらでもいいが、これで公然的に動けそうだ。
しかし、ザワザワと騒めく群衆の中から声がした。
「おいおい、物騒なモン持ってんな?」
「あー、面倒くさい。アイツ嫌いなタイプだ」
「ん~? 美人なら俺は歓迎だっての」
「はぁ。何やってんだ。早く仕事終わらせるぞ?」
「やれやれ、ですかね?」
人混みの間から5人の男達が出てきた。全てが獣人。合わせて6人。
「獣人6人……お前達は白い少女、ユウの事を知ってるな?」
「さぁ? 私達はお仕事獣人ですので? 色んな仕事してるんで覚えてませんね?」
一番頭が回りそうな獣人が口を開いた。だが、その言葉を発する顔に大きな闇を感じた。今日一番のアタリみたいだ。私は剣を5人の獣人へ向けて叫んだ。
「お前らを粛正して奴隷を開放してやるッ‼」
その言葉を笑うのは6人の獣人だけだった。




