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第56話 アレと関わったらいけない



「アビゲイルさん、アビゲイルさん、そういえばユウはどうしたの? さっき白い少女に見覚え無いかって、聞いてたよね? 聞いてたよね?」


 商業地区の表通りを歩いてたら不意に(たず)ねられた。素直に誘拐されたとは言えない。私はどう答えるか一瞬悩んだが、すぐに答えた。


「あぁ、ユウは、少し目を離したら迷子になってしまったんだ。誘拐されたら困るから探していたんだよ。私が裏通りで、胡散臭(うさんくさ)い奴が表通りを、な?」


「そうなんですか? そうなんですか? 全くユウはお子ちゃまですねー。可愛いから心配しちゃいますよね? なるほど。なるほど」


 どうやら納得してくれたようだ。はぁ……冷や汗掻いたぞ? エヴリンに言ったら私も手伝うとか言いそうだしな。内心焦ったものだが、事なきを得たようだ。



 その後は話題を逸らすために世間話をしながら歩いていたんだが、南門方面へと歩いていく最中、なにやら不穏な空気を感じた。前方を目を凝らして見てみると、何故か人が端の方へと避けている様だった。


 何だ? 王族か貴族でもいるのか?


 私の目でもよく分からない距離なのだが、明らかに人が道端へと避けている。道の真ん中には怪しい恰好の男? がいるように見える。遠目でも分かるほどクネクネしながらこちらへと歩いている。ソイツはどんどんこちらへ近付いてくる様だ。通りを歩く人は目を合わせない様に端に寄り、()()()()()()()()


 何故だろうと思ったが、私が認識できる距離になって始めて理解した。


 アイツは王族などではない!? アレは流石にヤバいぞ!?


「エヴリンっ! 私に着いて壁に寄れっ! 絶対に通りを見るなよッ‼」

「エヴリンっ! 私に着いて壁に寄れっ! 絶対に通りを見るなよッ‼ え?」

「えッ? 何? 何? わ、分かったよ!?」


 良かった。エヴリンは素直に私の言う事を聞いて従ってくれた。今は壁にエヴリンを挟むように立ち、ただアレが通り過ぎるのを待っている。


 アレはヤバすぎるだろう……? あんなのシャレにならんぞ? アレがオシャレのつもりなのか? ただの変態だろう?


 私はチラリと肩越しにアレを見た。


 灰色の髪は9:1の横流しで刈り上げている。まともな部分はそこだけだな。



 上の服はメッシュ生地で()()()()()()()()。アレは着てると言っていいのか?


 ズボンは()()()()()。見えるのはTバック。……あの膨らみは目に毒だ……


 靴は、ハイヒール。なんて()()()()なんだ……


 最後におまけ。化粧が、キツイ。まつ毛やら、口紅やら、ツッコミどころが多すぎる……


 とにかくヤバい奴が今、道の真ん中を練り歩いている。さも、当然とばかりに。私達は結局他の人達と同じ行動になっていた。関わっては絶対に駄目だッ‼ 早くどっかへ行ってくれッ‼ この世界を統べる神よッ! どうか願いを聞き入れてくれッ‼



 だが、私の心の声は神には通じなかったらしい……


「アラぁん? 貴女の髪綺麗ねぇん? 真紅の赤って感じかしらぁん? 後ろ姿がなんとも()()()()()わぁん? ねぇ、貴女、私にお顔を見せてちょうだぁい?」


 私には死神の言葉の様に聞こえた。何故私達の方、いや、私に声を掛けるんだッ!? 他にもいるだろッ!?


 私はせめてエヴリンだけは視界に入れない様にした。この変態はヤバすぎるからな。


「す、すまない。い、今は体調がスグレナインダー。また今度、でダメか?」


 色々怖すぎてカタコト気味に返事をしてしまった。どうか、気にせずどっか行ってくれッ‼


「はぁん? 体調が悪かったのぉ? ……まぁ、いいわぁん。今日は()()()()があるらしいしねぇん? 運が良かったわねぇ? 赤髪の可愛いワンちゃん? また何処かで会いましょう?」


 そう言いながら変態悪魔は歩き出していった。絶対に二度と会わないからなッ‼


 私は心に誓って安堵の溜息をついた。


「あ、アビゲイルさん、アビゲイルさん? もう大丈夫かな?」

「あ、あぁ、すまない。アレはもう何処かへ行った。もう安全だ。絶対安全だ。早く送ろう。うむ、そうした方がいい」


 ばったり出くわさない為にも早々に立ち去ろう。



 私は一種のトラウマの様なモノを感じつつその場から離れたのだった。









 ~カイン~



「なぁ? 本当にここにいんのかよ?」


「えぇ、私の部下に探らせましたので。それよりカイン殿はなにやら変わられましたな?」


「あ? そりゃ、嫌味か?」


「……いや、そうですな? 失礼を……」


 俺は侯爵と、侯爵の数人の部下と共に町長宅へと訪問していた。侯爵の部下の調べによると、ここがアタリらしいからだ。まさか、の町のトップ。町長が奴隷の斡旋を行っていたというのか? だが、俺自身はまだ納得はしていない。()()が無いからだ。それに、町のトップが何故奴隷を? 表向きは差別が無い町だと公言しているだけなのか? 裏があるのか?


 今の俺には判断出来ない。だが、もし嬢ちゃんがいたなら話は別だ。理由はどうあれ、俺の敵になる。だからこうして侯爵と共に訪問したんだ。


 

 今いる場所は応接室。町長が入り次第調査を開始する。


 一つは聴取。これはただのオトリ。


 もう一つが本命。数人の使用人に町長宅の捜査を命じてある。


 犯人、もしくは奴隷を見つけた場合、行動に移す。行動という答えは簡単、粛正だ。法を犯す者には相応の罰が必要だからな。奴隷落ちか、死。証拠さえあればすぐに終わるだろう。



 ギィィィッ



 年季の入った扉を開き、軋む音を鳴らしながら町長が入ってきた。パッと見どうやら人と魚の混合、いわゆる魚人の様だ。なかなか筋骨隆々で威厳を感じさせる男だ。


「お待たせしましたな。急な来客はご遠慮願いたいのだが?」


「おぉ、町長殿。急な訪問かたじけない。この度は我が屋敷で起こった()()()()報告しようと思いましてな?」



 さぁて、白黒つけましょうかね?



 俺は首を鳴らして笑って町長を見た。



 

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