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第54話 裏通りの影と陰



(はぁ、朝か)



 ベッドに仰向けになって寝ていたようだ。特に変化の無い石造りの天井に嫌気がさす。原因はどうでもいい口喧嘩だったんだ。そのせいでユウが賊に攫われてしまった。今はユウを救う事が最優先だ。全てが終わったら謝ろう。


 今日は少しばかり寝れた。というより、気付いたら寝てた。町中を探し回ったせいで疲れて寝てしまったようだ。こんなトコで呆けてる場合じゃないな。


 私はベッドから起き上がり、装備を確認していった。確認中にふと、腕に着けた青い腕輪を見た。


 この腕輪があれば、多少の問題がうやむやに出来るらしい。だから今日は怪しい場所へ立ち入るつもりだ。もし戦う事があるならば、役に立つだろう。


 装備を確認し、愛刀のロングソードを腰に差しながら気合を入れる。


「今日こそ、終わりにしてやるからな。待っていてくれ……ユウ」


 私はそのまま宿を出てユウを探しに行こうかと思ったが、(きびす)を返し宿屋の1階にある食堂へと足を向けた。




 ~宿屋食堂~


「ふぉ? ふぉい、ふぉふぉだふぉふぉ」


 相変わらず口一杯に飯を詰めて鬱陶(うっとう)しい手招きで私を呼ぶ奴がいる。しかし、今日はコイツの知恵を借りたいと思った。悔しいが、頼れる頭脳を持っている害虫にどうすればいいか聞きたかったんだ。


「今日こそはユウを助けたい。どこに行けばいい?」


「ゴクン。ふぃー。どこに行けばいい? か。侯爵の情報だと商業地区、つまりはココだな。ただ、何処かまでは知らないぞ? 言える事があるとしたら、『裏道を探せ』、だな。表通りにはいないだろう」


「商業地区の裏か? 港ではないのか?」


「あぁ、俺も港に嬢ちゃんを()()してんのかと思ってたんだがな。どうやらこの町の陰は人混みに隠れるのが得意らしい。ついでに言うと隠れた先でイロイロと悪い事してるみたいだ。何が差別の無い町だっつーのな? 見えてんのは表だけかっての」


「そうか。人混みの陰か。可能性が高いのは確かに商業地区だな。分かった」


「俺も今日ばかりは本気で動いてみるわ。侯爵にも協力してもらっから。……聖女様を助けるぞ」


 害虫の目はいつもより真剣だった。だからと言って期待はしていないのだが。それでも1人よりは心強い。今回だけでも仲間として協力してもらおうか。


「あぁ、頼むぞ。()()()


「お? お、おぅ。任された」


 害虫は私の顔を見て固まっていたが、気にしない。やるべき事をするだけだから。私に出来る全てを使って、私はユウを守る。その決意を胸に私は宿屋を出た。



 



 ~商業地区~


 商業地区にはいろいろな露店や、商品店舗、地方ギルドや商業ギルド様々な店が立ち並ぶ賑やかな場所だ。その賑やかさとは裏腹に、影の多い裏通り。どこかヒンヤリとしていて、どこかジメジメと感じる。人の気配は一切感じない。そんな場所を私は歩いていた。たしかにここは身を潜めやすいな。


 普段人が通らない場所を歩いているだけなのだが、怪しさが満ち溢れている。見る場所全てが怪しく感じてしまう。出来ればザコが絡んできて居場所を吐いてくれれば楽なんだが。


 どんなに歩いていても何もない。見渡す限りの建物の壁がまるで迷路の様に錯覚してしまう。無限の暗闇を歩いている様だ。

 

 私は1時間、2時間と当てもなく歩き、遂に人の気配を感じた。誰か、いや数人? こんな場所にいるとは……()()()、か?


 建物の陰に隠れて様子を窺って見た。




「これで、これで、町の中に入れるの?」

「あー? 何この雑草? こんなもんいらねぇよッ‼」

「きゃぁっ!」


 どうやら女の子が複数の男達に何かを渡そうとして断られたようだ。だが、あろうことか男は女の子を殴り飛ばした。なっ!? アイツら‼ どうする? 助けるか? しかし目立ってしまうと……


 目の前の女の子を助けるか、ユウを(さら)った賊かを見極めるか、この選択肢を私は迷ってしまった。


 普段なら当然助けるのだが、もし男達が賊の仲間ではなかった場合、目標の賊に感付かれる恐れがあったんだ。だからすぐに動けなかった。


「なんで? なんで? エリ草あげたら仕事紹介するって、お母さんと町に住めるって、言ったのに‼ 言ったのに‼」


「エリ草じゃねぇっつってんだろッ‼」

「きゃぁっ! やめてっ! 痛いっ! 痛いぃっ!」


 男達は女の子を囲んで蹴っていた。私はその光景を見ていられなかった。


「ヤメろぉッ‼」


 私は勢いよく飛び出し、正面の2人を剣で薙ぎ払った。もちろん鞘付きでだ。女の子を囲む男達は何事かと私を見るが、見ている間に足払いや膝蹴りでさらに2人戦力外にした。見る限りは残り3人いる。女の子を7人で囲むなんてゲスな奴らだ。無性に腹が立った。


 きっとこいつらは何も出来ずに奪われていく絶望を知らないんだ。痛みを知らないから何でも出来ると勘違いしているんだ。知らないだけなら(あわ)れだと思うだけだが、暴力を振るうという事は相応の覚悟が必要だ。


「残り3匹か、鬱陶しいッ‼」


 私は加減せずぶちのめした。せめてもの女の子の痛みを理解出来るように。


「あ、ありがとうありがとう。おねぇ……あれ? あれれ? アビゲイルさん? だよね? だよね?」


 振り返るとそこには髪が青緑色の小鳥少女、エヴリンがいた。


「エヴリン? なんで町の中に? それより身体は大丈夫か?」

「エヴリン? なんで町の中に? それより身体は大丈夫か? え?」


「大丈夫大丈夫。私ね、私ね、エリ草あげたらいい仕事を紹介してくれるって言われたから頑張って森に入ったんだけど、また助けられちゃったね? あはは……頑張ったんだけどね、頑張ったんだけどね……うぅぅ」


 そうか、たしかお母さんの為にって言っていたが、家族で町に住むために1人で頑張っていたのか。それをこいつ等が踏みにじって……


 私はエヴリンを優しく抱き寄せた。


「エヴリン、お前は1人で頑張ってたんだな。私の大事な人が言ってくれた言葉をお前にも教えてやろう」


『どんなに辛くても、苦しくても、無理しないでいい。命を大事にするんだ。きっと家族、お母さんもそう思っているだろう。頑張り過ぎるな。生きているだけでいいんだ。お前の笑顔が必要な人がいるんだ。だからお前は泣くな。いつも笑っていてくれ』


 私の言葉を聞いたエヴリンは泣き出してしまった。う、うむ? 違ったか?


「わだじぃ、お母ざんのだめに、うぅぅ、笑っだらいいのぉっ?」


「そ、そうだ、この世界は笑顔が必要なんだ、と、思う」


「うぅぅ、いひぃぃ」


 エヴリンは泣きながらも顔は笑っていた。


 フフッ。ユウに似て可愛い奴だ。私は慰めるようにエヴリンを抱きしめた。救われたのは私かもしれないと思いながら。

 

 私達を見る陰には気付かずに……






 …………


「いいですねぇん? いいですねぇん? あの青緑の少女ぅん。これはいい商品を見つけましたかねぇん? あの方が来たら、取りに来ましょうかねぇん?」


 そしてその影は誰にも気付かれずに消えて行った。




 

 

 

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