第51話 明日の予定と変態キモン
結局私達は侯爵の屋敷へは入れなかった。最終的には牛の門番の根負けという形で、だが。いつまで叫んでいても誰も出てこないんだ、諦めて当然だろう。そして、あの害虫の言っていた憶測の可能性が上がったとも言える。とりあえず喉を枯らした牛の門番は私達が今日泊まる宿を確認して翌日にまた出迎えて侯爵の屋敷へと行く事が決まった。
今は宿に部屋を2つ取り、害虫とは別の部屋で私は大人しく考え事をしていた。
ユウは大丈夫なのだろうか? 害虫の憶測だと身の安全はあるようだが、このままだと奴隷にされるみたいだ。悠長にしている暇はないのだが、今は自由に動ける状態ではない。
「はぁ、ここまで大事になるとは……」
ただ、害虫にイラついて当たっただけなのに。結果ユウを巻き込んで侯爵がらみで厄介ごとになっている。全く、私は何をやってるんだ。ただこの町では船に乗るだけに立ち寄っただけで、この後もミッズガルズ等行くべき場所があった筈なのに。
コンッココ、コンッ
はぁ。どうせアイツだろ。なんだこの時間に。
「なんだ? その場で用件を言え」
「あ? 入れろよ?」
「なんだ? 私の裸を見に来たのか? やはり変態だな」
ウソなのだが、な。害虫を私のいる部屋に入れるワケないだろ。
「そうか、裸なのか、それは失礼した、なッ‼」
ガチャッ
ふむ。やはり変態のようだ。今後の対応を変えよう。
「おいッ‼ ガッツリ服着てんじゃねぇかッ‼」
私の裸くらいどうでもいいのだが、ユウには近付かせんように気を付けよう。あの柔肌は私のモノだからな。あの胸の柔らかさも、あの可愛いお尻も……
「おいッ!? なに気持ち悪い顔してんだよ? だ、大丈夫か?」
いかんな。ユウの裸は魔性の香りの様だ。私がおかしくなってしまったようだ。それにしてもクソ色欲害虫に正されるとは、失態だな。
「おい。何勝手に入ってきてるんだ色欲害虫キモン」
「色欲害虫キモンんっ!? 俺はカインだっつてんだろ‼ モンスターかってのッ‼」
「私の裸を見る為に扉を開けたのだろ? 変態」
「ゴホんッ! んー、あー、お前に明日の予定を伝える」
害虫は汚い演技で話題を変えようとしているな。ったく白々しい。しかし明日の予定か。
「なんだ? 言ってみろ。へ・ん・た・い」
「グォッホンッ、明日は別行動だ。俺が侯爵、お前が自慢の鼻で町中を探ってくれ」
別行動か。たしかに頭が回る変態キモンに侯爵を任せた方がいいし、ユウの匂いが分かる私が町中を探す方が効率的だな。しかし、町中? 賊なら町の外の方が可能性があるのでは?
「構わんが、町中なのか? 外ではなくて?」
「あぁ、賊ではあるが、奴隷にするなら町中に潜んでいる可能性が高い。嬢ちゃんが可愛くなければ話が変わるが、嬢ちゃんは人間にとっては上玉どころではない。売るならミッズガルズ。船を使う可能性が高いだろう」
なるほどな。たしかに獣人の私でもユウにゾッコンだからな。売るならユウと同じ人間か。船に乗るなら港、か?
「港でいいのか? それよりクソ変態色欲害虫キモンは侯爵に会えるのか?」
「あぁ、とりあえずは港、だな。馬鹿な賊ならそこにユウがいる筈だ。馬鹿じゃなければこの件は厄介だな。あと俺はカインという人間なんだが、人間の俺はココを使って必ず明日会ってみせるさ」
クソ色欲変態害虫キモンは偉そうに頭を指さしている。この態度、イラつくな。頭がいいアピールなど今はどうでもいいだろう。
「そうか、では明日はクソ色欲変態害虫キモンの言う通り動いてみようか。では明日に備えて出てくれ」
「あぁ、人間のカイン君に任せてみろ。じゃあ、素直に今日は出るわ」
いつか襲ってきそうだな。気を付けとくか。
明日の予定を決めて私達は寝る事にした。ユウには丸一日会っていない。本当に大丈夫なのだろうか? 変な男に襲われてないだろうか? 心配だ。寝れそうにない。しかし勝手に動いてもし捕まったりしたらもう会えないかもしれない。奴隷にされようと必ず救うが、ユウを穢されたくない。姉として、妹が心配なんだ。
待っていてくれ。必ず私がユウを守ってみせるからなッ‼私は闇夜に浮かぶ半月に新しく誓った。それは復讐ではなく、家族を守る為の誓いだった。




