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第50話 憶測の範囲



「すまないッ‼ 私は町の警備兵であるモウロと申すッ‼ ゴルディ侯爵様に御目通(おめどお)り願いたいッ‼」


 私達はこの港町リヴェールの門番の1人と、ユウがいると思われる貴族の屋敷へと歩いてきた。もう一人の門番の話だとここにいる筈だからだ。今は屋敷の外で門番の後ろに控えて待機している。

 

 だがこの大屋敷の入り口や敷地内に守衛(しゅえい)の姿が見当たらない。む? これほどの屋敷で侯爵たる者の家なら守衛の10人や20人はいる筈なのだが? どういう事だ?


 どんな貴族でも必ず身を守る為に、守衛や警備兵、場合によっては冒険者などを雇っている筈だ。どんなに人を大事にしていても何処かで必ず(よこしま)な考えを持つ人間がいるからな。そんな人間達に関わらない為にも守衛等が必要になる筈なんだが?


 牛の門番が大声で叫んでいても誰1人として出てくる様子はない。それどころかここからでも見える屋敷の中が何やらざわついている様に見える。早くユウの無事を確認したいのだが、やけに慌ただしいな? 何かあったのだろうか?


「チィッ! もしかして狙われたのか?」


 狙われた? 何を言っているんだ? 私の隣で害虫が妙に苛立たしげに舌打ちしながら呟いたのを聞いた。


「おい。なんだ? 害虫は何か知ってるのか?」


「いや、知ってるワケじゃないが、嫌な考えが思い当った。耳貸せ」


「はぁッ!? 誰が害虫に耳など--」


「高い確率で嬢ちゃんは危険だ。小せぇ事気にしてる場合か?」


「なっ!?」


 たしかにこの貴族の屋敷に何か起こってそうな雰囲気はある。害虫の言う可能性も捨てきれない状況だが、むぅ? 今は情報が無い。守衛も使用人も出てこない以上、最悪の状況を考えとくのもいいかもしれんか?


 虫唾(むしず)が走るが私はユウの為にも耳を貸すことにした。


 コソコソ……

(で?)

(憶測だが、状況を考えると悪いことが起きたな)

(だからそれは何だと言っている。それにコソコソする必要あるのか?)

(それも込みで説明する。驚いても気付かれない様にしろ)

(あぁ? わかった。それで?)

(この屋敷は何者かに襲われた可能性があるな)


「はぁッ!?」

「すまな、モッ!? ど、どうした?」

「い、いや、すまない。くしゃみが出そうで出なかったみたいだ」

「そ、そうか? 大人しく待ってろ」


 牛の門番が私の声に驚いて振り返ってしまった。なんとか誤魔化せたが、襲われただと?


 コソコソ……

(おいッ‼ 気を付けろ!)

(仕方ないだろッ!? 賊に襲われたのかもしれないのだろッ!?)

(はぁ。落ち着けっての。話を続けるが、まず守衛だ)

(む、ムゥ。たしかに守衛がいないのはおかしいな)


 コソコソ……

(あぁ、次に誰も来客に気付いてない。いや、分かっていても出てこない、か?)

(たしかにあれだけ門番が叫んでいても出てこんな?)

(あんだけクソうるせぇんだぞ? 誰かしらは普通気付くだろ?)

(そうだな。うるさいな、あの牛)


 コソコソ……

(次に、嬢ちゃんが来たであろうタイミングで起こった)

(ん? たまたまでは? それより中に入って確認した方が?)

(馬鹿か? 目の前に警備兵がいんだろがッ‼)

(う、うむ。不法侵入で捕まるか)


 コソコソ……

(はぁ。絶対すんなよ? で、だ。今の分かる情報だと守衛がいないのと、誰も来ない点で中で何かが起こった可能性がある事が分かるな?)

(あぁ。だからユウの身を守る為に乗り出そうかと)

(やめとけ。気持ちは分かるが、保険が無い。悪手になる可能性があるうちは下手に動くな)

(だがッ!?)


 コソコソ……

(嬢ちゃんの()は大丈夫な筈だ。なんなら魔法もあるしな)

(今この時に中で何かが起こってるのかもしれないのだぞ!?)

(だぁから憶測なんだろ? ここからが俺の嫌な考えだが、いいか?)

(なんだ?)


 コソコソ……

(まず、侯爵たる人物の屋敷に賊が入ったとなると静かすぎる。それに守衛が1人もいないってのも理由だな。だから今は事後の筈だ)

(もう終わっていると? しかしそうなら尚更入り口に守衛がいる筈だが?)


 コソコソ……

(あぁ、普通の貴族ならそうだろう。だが、()()の屋敷を襲ったんだぞ? 嬢ちゃんが来たタイミングで、だ。当然怪我人や死人が出た可能性もあるが、とりあえず守衛は侯爵の身を案じて身辺警護でもしてんじゃねぇか? それより、客人に何かあったら侯爵は対応に追われる筈だ。もし憶測通りなら数人は町に捜索に出てるはずだ。侯爵の失態を気付かれない様に、な? それと、誰かが今も俺達を監視している筈だ。中に入ろうものならソイツは黒だ。つまりは守衛がいない事が賊へのオトリの可能性が高い)

(ふむ? そもそも賊などがこんな貴族の屋敷を襲うか? リスクが高いだろう?)

(そこが一番嫌なトコだ。お前は分かるか?)

(何故リスクが高いのに襲ったか? ふむ。知らん)


 コソコソ……

(はぁぁっ分っかんねぇのか? 嬢ちゃんが狙われた可能性があるだろ? アレは高いだろうからな? 美少女で全身真っ白。純情でスタイルが将来有望、おまけに聖女様だからな。アレは完ぺきすぎだろ?)

(なッ!? 私のユウが目的だと!?)

(じゃねぇと馬鹿げた計画過ぎんだろ? だから侯爵も考えてんだよ。今どうするべきかを、な。だからいつまで待っても出てこねぇんじゃねぇか?)

(なら、早く警備兵に--)


 コソコソ……

(そこがこのコソコソ話ってわけ。不審に思われてる俺達が何で賊の事を考える? 何故嬢ちゃんの事を知ってる? 怪しまれるのが目に見えるぞ?)

(最悪ユウ探しではなくなる、か)

(そうだ。俺達は誰にも頼れないぞ? だが、どうしても侯爵には会わないといけないな。情報が少なすぎる。まぁ、何も無いに越したことはねぇんだが)

(分かった。大人しくせねばならないが、今は動けないって事だな)


 コソコソ……

(そー、そー。もし動くなら戦う時、だな。あくまで俺の憶測の範囲であって、本当に賊が入ってるのかは分かんねぇぞ?)

(だが、もし憶測通りならお前が指示を出せ。私はユウを守る為の剣になる)

(悪かぁねぇな。憶測通りなら今回は協力戦だ。本当の害虫駆除、出来ねぇなんて言わねぇよな?)

(ユウが無事なら一緒に駆除してやるが?)

(はっ。俺は人間だから御免だわ)



 一向に開く様子の無い門の前で私達は一時協力する事にした。本来なら虫唾が走って気持ち悪くてぶん殴りたいような奴なんだが、どうにも頼りになりそうだからな。今は協力してやる。



 私の家族の為に出来る事は何でもやってやるッ‼



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