第49話 口車
「あ、おいッ!? 守秘義務があるだろッ‼」
「あ。モ、モゥ」
どうやら私たちの会話を聞いていたらしいもう1人の牛の門番が焦って割り込んできた。
守秘義務か、門番なら当然の職務だな。簡単に個人情報を言うべきではない。まぁ、私達が原因ではあるのだが。
「いや、俺達は何も聞いていないな? ただ迷子を捜しているだけだ。なぁ?」
「あぁ? ……そう、かもな?」
なんだ害虫? もしかして牛の男に気を使ったのか? それとも何か狙いがあるのか?
私はとりあえず害虫に話を合わせる事にした。侯爵なる人物が出てくるとなると冒険者ごときでは相手にならない。相手は貴族の中でも上位に与する存在だからだ。今の私では話すら聞いてもらえないだろう。
なにか考えがあるのか? 認めたくはないが、コイツは頭がいいしな。利用できるなら今は協力してやろう。
「ウソをつけッ! お前らより離れていた俺が聞こえてんだぞ!?」
「まー、まー、落ち着けって。貴族の中でも上から数えた方が早ぇようなお偉いさんなんだろ? 下手に関わったらロクな事になりゃしねぇ。だから俺たちは何も聞いてねぇ。どお?」
「やはり聞いているではないか! 悪いがこの件は個人情報だ。それに相手が悪い。情報を悪用されない為にもお前達には拘置所に数日いてもらう事にする。拒否権は無い」
む? 今度は拘置所だと? そんな所にいたらそれこそユウに会えなくなるぞ?
「あらら。下手な判断で問題起こしたら、首が飛ぶのは……なぁ? 怖い怖い」
「お前はなにが言いたいんだッ! ゴルディ様は人間と我ら獣人の架け橋となり、差別のない街を作って下さった偉大なお方なんだぞ!? あの方は人を大事になさっているッ! 首が飛ぶだと? 馬鹿にするなッ!」
「あー、悪ぃ悪ぃ。言い方が良くなかったなぁ」
ほぅ? ゴルディ侯爵なる人物は人を大事にしているのか。それならばユウの身は心配せずともよさそうだな。しかし害虫の分際でなかなかやるな。煽りつつもどんな奴か情報を引き出すとはな。で、どうするつもりだ?
「俺達のツレ、嬢ちゃんは聖女なんだ。知ってたか?」
……は?
「は? 聖女? 聖女様はミッズガルズの【水の都】にいるだろう? 寝ぼけてるのか? そこまでして拘置所送りを免れたいのか? 悪いが--」
「まぁ、聞けって。あの嬢ちゃんは第『7』魔法を使う光の聖女様だ。【水の都】にいるアイツとは比べようもない。言ってる意味分かるか?」
たしかに【水の都】にいる聖女様は第7魔法を使えない。そういう意味ではユウは本物の聖女だろう。しかしユウはまだ子供だぞ? 誰が子供の聖女など信じる?)
「モッ!? あの真っ白な嬢ちゃん聖女様だったのか!?」
「モッ!? 第7だとッ!? そんな馬鹿な話誰が信じるとでも? もし本当なら俺の首を差し出してやるわッ‼」
見事に牛が被ったな。そして見事に意見が割れたな。しかし、おい片割れの門番よ。お前今死んだぞ? 簡単に首を差し出すな。
「まぁ、信じないだろうなぁ? 本物を見てねぇからな。俺達は人を救う為に旅をしているんだけどなぁ? さて? 聖女様の仲間を拘置所にぶち込んだ奴はどうなんだろうなぁ? 何も悪い事してねぇのになぁ? 拒否権ねぇもんなぁ?」
あぁそういう方向で行くわけか。
「モゥ。本物なワケないだろう」
「そうだな。お前達は信じないもんな。だが、もし本物だったらどうする? どう責任をとるんだ? この件をお前達が簡単に決めていいのか? 本来なら国王クラスのバケモンが決めるような事案だぞ? というより聖女だと分かったら嬢ちゃんは国王より偉い存在になるんだよなぁ? 侯爵とか小さな存在気にならねぇよなぁ? という事はこの判断を間違えた時にどうなるんだろうな? あぁ、怖い怖い」
「モゥゥゥ」
凄いなこの害虫。気持ち悪いぐらいに説き伏せようとしてるぞ? ホント、気持ち悪いな。
「だが、ムゥ。……本物だと証明できるのか? 本当に第7魔法を使えるのか?」
「あぁ、嬢ちゃんは聖女様だからな。会えば分かんだろ。どっかの屋敷に連れてかれた、としたら俺達じゃどうしようもねぇなぁ? 俺達はただの仲間で、凄いのは聖女様だけだもんなぁ? はぁ。どうやったらお貴族様に会えるのだろうか? はぁ。この町は差別が無いハズなのになぁ?」
「……分かった。拘置所の件はひとまず保留だ。白い聖女の件は俺がお前たちをゴルディ侯爵様のもとへ案内した後、本物かどうか見極める。カウル。守秘義務を守れなかったんだ、1人で出来るな?」
「モッ! すまない。大丈夫だ。任せてくれ」
呆れて言葉が出んぞ。この害虫、何て事ないように言いつつもユウに会う口実を作りだしてしまったぞ!?
こうして害虫の口車により、私達は侯爵の屋敷へと向かう口実を手に入れたのだった。




