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第48話 見た者はいない


今回からはアビゲイル視線です。



「もう町の入り口で騒ぎを起こすなよ?」


「あぁ。迷惑をかけてすまなかった」


 はぁ。やっと解放された。ったく、取り調べだなんだの結局朝になってしまったではないか。今にもユウが1人寂しくしているかもしれないというのに。


 私が釈放されたのはこの港町リヴェールの東、商業地区の警備詰め所だった。数回は来たことある町なのである程度はここが何処だかは分かる。

 

 害虫は違う所にいるようだな。まぁ、どうでもいいが。たしか町の入り口は南側だったな? 悠長(ゆうちょう)にしてられん。早くユウを迎えに行ってやらねば!


 私はもう1度警備兵に礼をして、早足に町の入り口へと向かった。



「ユウッ!」


 町の入り口まで迎えに行ったのだが、ユウの姿はどこにも見当たらなかった。


 ユウ? どこに行ったんだ? 町の外ならばもしやエヴリンの家なのか? 町の中にはいない筈だしな。


 たしかユウは身分証など持っていなかったはずだ。記憶が無い為か字が分からない様だったし。


 まさか1人で野宿などしていないだろうな? あぁッ、私が害虫などに気を取られたばかりにッ! いや、考えていても仕方がない。早く探す事が最優先事項だ。


 どこを見回しても周辺にユウの姿は無かった。不安と焦り、自身への苛立ちに私は唇を噛み締めた。せめてもの希望としてエヴリンの家を探そうかと足を踏み出した時、声が掛った。


「モゥ? お前昨日の真っ白な嬢ちゃんのツレだった奴か? 無事に出れたみたいで、ンモ? 嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」


 誰だこの男? 恰好から察するにこの町の門番か? は? 真っ白……? 嬢ちゃん?


「ッ!? お前はユウの事を知っているのかッ!? 頼むッ! なんでもいい! ユウがどこに行ったか知っていたら私に教えてくれないかッ!?」


 私は(わら)にも(すが)る思いで、門番の男に詰め寄った。


「モッ!? まだ会ってなかったのか?」


 まだ? まだとはどういう事だ? まるで町の中で会っていて当然のような言い方だが?


「私はユウの義姉なんだッ‼ 頼む、頼むから教えてくれッ‼ 私の大事な、最後の、家族なんだっ!」


「そ、そうか。なら、もっと大事にしろよな。義理でも家族なら1人にさせんなよ。モゥ、嬢ちゃんなら無事だろう。今は町の中にいる筈だ。俺が教えられるのはこれぐらい、だな」


 そうか。ユウは無事なのか。だが町の中にいるのか? どうやって入ったんだ?


「教えてくれてありがとう。1つ聞きたいんだが、ユウは身分証を持っていないしまだ字が解らない筈なんだが? どうやって町に入ったんだ? 貴方なら知っていると思うのだが?」


「あぁ、親切な奴が嬢ちゃんに便宜(べんぎ)(はか)ってくれたんだよ」


 便宜? ユウにとっては利になるかもしれんが、その親切な奴は何故ユウに? 目的があって近付いたのでは? いや、憶測だけでは答えが出ないな。


「そうか。いろいろ教えていただき、感謝する。もし良ければ、害チュ……黄色髪の胡散(うさん)臭そうな馬鹿な顔をした馬鹿が来たらここでユウを待つように言ってくれないだろうか? 入れ違いになるかもしれないのでな」


「馬鹿な顔をした馬鹿って、仲間じゃないのか? まぁ、いいけどよ」


「そうか恩に着る。私は町の中を探すが、見当たらなければ夕方にここに来るという事も馬鹿な顔をした馬鹿に伝えてほしい」


「モ、モゥ。伝えといてやるよ」


「よろしく頼む。では」


 この門番はいい奴だったな。それよりはユウ、だ。一体どこで何をしているんだ? 昨日から一夜経ったが無事なんだろうか?


 私は再び町へと向直(むきなお)り、ユウを探す為に歩き出した。






 が、結局どこにも見当たらなかった。もう日は傾き夕方になろうとしている。数人の聞き込みの情報によると、


 北の港地区、東の商業地区では見た人はいない。南の入り口は常に出入りしている様な場所なので見た人がいてももういないだろう。一応は聞いて回ったんだが、やはり見た者はいなかった。西の住宅地区はユウにとっては無縁の場所だろうと考えた。家以外に何も無いからだ。この町に住む人以外立ち寄る様な場所ではない。結果、町の中にいるだろうユウの事を見た人はいなかった。


 あの門番がウソをついていたのだろうか? しかし、会っていて当然のような言い方だったしな? 少なくとも何か知っているだろうな。ただ、相手は門番だ。この町の警備兵だからな。下手に(から)むといらぬ誤解が生じるかもしれん。はぁ。誰も見ていないというのは少々気がかりだ。もしかすると町の入り口で待っている可能性もあるのだが……行くしかないよな。



 私は結局ユウに会うことが出来ず、門へと戻ることにした。

 




「はぁ。おい害虫? ユウは来ていないのか?」


 私は町の入り口まで戻ってユウが帰っていないか確認したのだが、いたのは2人の門番と薄汚く気持ち悪い馬鹿のような顔をした害虫だけだった。


「はぁ。お前だけかよ。で? 何か分かったワケ?」


 なんだかんだコイツ害虫って受け入れてるよな? まぁ害虫に変わりないんだからどう思っていても知らんが。しかしここにもユウはいないか。


「町でユウを見た者はいなかった」


「あ? どういう事だ? おい、門番さんよ? 町の中にいるんじゃねぇのか?」


「モッ!? いや、たしかに入ったはずだッ! 私は見届けたんだ」


 やはりユウは町の中に?


「ゴルディ侯爵の客人として。俺が立ち会ったんだぞッ!?」


「は? 侯爵?」


 ゴルディ? 誰なんだソイツは? ユウは何故侯爵の客人として? 何故よく分らん奴に着いて行ってしまったんだ?




 私は混乱して頭が真っ白になってしまった。


 

 


 

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