第45話 港町リヴェールの入り口
「ねぇ、エヴリンさん? お家はどこなんですか?」
「ねぇ、エヴリンさん? お家はどこなんですか? え?」
「お家はね、この街道をまっすぐ行った港町のリヴェールってトコの町外れ。町外れ」
リヴェール? それって目的地の港だ。その港経由で人の大陸ミッズガルズへ向かう予定なんだよね。
「ちょうど良かったな。私達もその港に用があったんだ」
「ちょうど良かったな。私達もその港に用があったんだ。え?」
「そうなんだ! そうなんだ! 良かったね! 良かったね!」
「う、うむ」
なんかアビゲイルさんちょっと苦手みたい。エヴリンさん小首を傾げて可愛らしいのに。
「俺も助かるよ。出来れば早く行きたいからな」
そうだよね。カインさんの故郷では今も苦しんでる人がいるかもしれないんだった。出来れば早く終わらせたいよね。
「カインさん僕の勝手に付き合わせてごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。嬢ちゃんが頑張るほど救われる人がいるからな」
「あ、ありがとうございます?」
僕はやってる事を褒められたから素直に嬉しかった。でもカインさん自分の故郷が大変なのに良かったのかな?
「……」
あれ? アビゲイルさんなんでカインさんの事を無言で見てるんだろ?
「どうしたの? アビー?」
「ん? あぁ、害虫の分際でよく人の事褒められるな、と、害虫の服の端についてる糸くずを見ていたんだ」
「おいッ! どういう事だよッ‼」
そ、そうなんだ。アビゲイルさんはブレないね。僕には糸くずがどこにあるか分かんないんだけど。それより、エヴリンさんの家は町外れ? 町の中じゃなくて? それって大丈夫なの?
「ねぇ? エヴリンさん? 町外れにお家あったら危なくない? 魔物とかいるし」
「ねぇ? エヴリンさん? 町外れにお家あったら危なくない? 魔物とかいるし。え?」
「うん。そうなんだけど、そうなんだけど、お家にお金ないから街に住めないんだ」
「あ、ご、ごめんなさい」
「あ、ご、ごめんなさい。え?」
「いいよー。いいよー。気にしないで。私小さい時からずっとそうだから。それが私のお家だから」
そ、そっか、そうだよね。みんな当たり前の生活って訳じゃないよね。裕福な家もあればそうじゃない家もあるよね?
「アビー? 僕に出来る事は何か無いのかな?」
出来る事があるなら何かやってあげたい。子供の僕じゃ何も出来ないかもしれないけど。
「ユウは魔法を使えるが、こればかりは難しい問題だな。例えば金を渡したとしても安定した収入が無ければ金が尽きた時にきっとこの子達は今以上の地獄を見る事になる。過度な心配は逆にこの子達を苦しめる事になるかもしれん。出来るなら私も協力してやりたいが。出来る事はない」
「エヴリンさん達の問題、って事?」
「あぁ、私達が横から手を出すべきじゃない。そうだろ、害虫?」
「誰の事だ? 何で俺を見てんだ? 俺は害虫じゃねぇからわかんねぇな」
「お前の出番だぞ? 責任害虫」
「誰が責任害虫だッ‼ チッ。嬢ちゃん、コイツが言いたいのはそれこそ責任だ。もうなんとなくは分かんだろ? 手伝うなら中途半端は許されない」
「言うだけ、やるだけじゃダメなんですよね?」
「そうだな。上出来だ、嬢ちゃん。今回はやるだけじゃダメって方だな。それに相手の事も考えてやらないとな? 本当に助けを求めた相手に手を差し伸べてやれ。それ以外はありがた迷惑って奴だ」
そっか。自分勝手に手伝ってもダメだよね? エヴリンさんが困った時に手伝ってあげたらいいんだ!
「分かりました。カインさんありがとうございます」
「どっかの馬鹿と違って素直でよろしい。じゃ、さっさと行こうか?」
僕に出来る事は魔法で癒す事だけなんだよね。
何でも出来るかもって勘違いしてたかも。
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それから2時間程歩いて、僕達はようやく港町リヴェールに着いた。
「エヴリンさんここまででいいの?」
「エヴリンさんここまででいいの? え?」
「ここまででいいよ? ありがとう! ありがとう! エリ草もありがとう。本当にお礼しなくてもいいの? いいの?」
「大丈夫ですよ。お母さん早く良くなるといいですね」
「大丈夫ですよ。お母さん早く良くなるといいですね。え?」
「うん! ありがとう! ありがとう! ユウ達に会えて良かった! 良かったらいつかまた遊びに来てね?来てね?」
「うん。いつか遊びに行くね?」
「うん。いつか遊びに行くね? え?」
「本当にありがとッ‼ またね? バイバイッ‼ バイバイッ‼」
僕達はリヴェールの町の入り口でエヴリンさんとお別れをした。最後までずっと元気な人だったなぁ。カインさんとアビゲイルさんはやけに疲れてるけど。
これから船に乗って人の大陸ミッズガルズに行くんだ。もしかしたらルナの言っていたあの人ってのがいるかもしれない。そういえば最近全然ルナの存在を感じないんだけどどうしたんだろう? 親友がいないのはなんか心細いんだけど?ずっと一緒って言ってたのに何かあったのかな?
「嬢ちゃん、早く町に入ってチケット買いに行くぞ?」
「害虫がしゃべるな! 気持ち悪い。ユウ、一緒に船のチケット買いに行こうか? 何? なんか気持ち悪い視線を感じる? 任せろ、私がユウを守ってやるからな?」
「アビー? 僕何も言ってないよ?」
「フフフッ。ユウは優しいな。私はユウが誇らしいぞ?」
「嬢ちゃん、気を付けないといつか、いや、多分近いうちにこの馬鹿に喰われるぞ?」
「ふぇッ!?」
ウソッ!? やっぱりアビゲイルさんはオオカミだから、肉食だから……獣人、怖い、かも。
「おいッ‼ 害虫貴様ッ‼ ユウが私から離れていくぞッ‼ どうしてくれるッ‼」
「クックックッ。当然の報い、だろ? 俺の事散々害虫呼びしやがってッ‼」
「ちょ、ちょっと2人とも、ここ町の入り口だよ!? 町中からいっぱい見られてんだよッ!? ホラ、何人かこっちに来て、る、よ?」
(アレ? なんか嫌な予感が?)
「糞害虫がッ‼ 私とユウの絆を引き裂いた罪は重いぞッ‼」
「あぁ? 絆ぁ? ンなもんあんのかぁ? お前嬢ちゃん、の……ぉ--」
「言葉さえ分からなくなったか? 流石に害虫だからな。仕方ないだ、ろ……ぅ--」
「「「「「不審者を拘束するッ‼ 抵抗するなッ‼」」」」」
「……え?」
「……は?」
え? カインさん? アビー? あ、なんか手錠っぽいの出てきた。
「「「「「確保ーッ‼」」」」」
あれ? どっか連れてっちゃうの? あー、テレビで見た事あるやつだ。なんだっけ? 現行犯逮捕だっけ?
……カクホ? あー、悪い人が捕まったんだね。良かったね。この町もまた平和になったんだ。
うん。カインさんが何か言ってる。
「俺じゃないッ‼ 俺じゃないんだッ‼ 信じてくれッ‼」
うん。アビゲイルさんも何か言ってる。
「害虫がッ‼ 害虫がいたんだッ‼ 信じてくれッ‼」
どっか連れて行っちゃった。あれ? ルナも、アビゲイルさんも、カインさんもいなくなった。1人になっちゃった。
アレぇぇぇぇぇッ?
どうしよう? お金もないのに。そもそも町に入ってもないのに。
「エェぇぇッッッッッ!?」
僕の叫びは町中まで響いてたと思う。 船どころか町に入れないし。犯罪者が出てしまった。
……僕、どうしたらいいの?




