第40話 カインの事情
「あー、そうだなぁ。説明しとかねぇといけねぇか」
カインさんは頭を掻きながらそう答えてくれた。ワケありって言ってた理由を教えてくれるみたい。
「お前にまともな理由なんてあるのか?」
「はぁー。嬢ちゃん、コイツをどうにかしてくれ」
「あ、アビー? お願いだから聞かせて?」
「ユウ。1割は冗談だ。さっさと話せ害虫」
1割の冗談ってどこの話の事なんだろう? ってか9割が本音って事?
「お前なぁッ‼ ……まぁいい話してやる。ついでにあそこで休憩するか」
「はい、分かりました」
「仕方ないな」
カインさんの指示で、僕達は街道に生えてる木の下で一度休むことにした。木陰がいい感じに涼しくてちょうどいい場所だった。
「俺に協力してくれる嬢ちゃんを信用して言うが、他言無用で頼む。お前もな」
そう言って真面目モードに入ったカインさんは僕とアビゲイルさんを見た。
「は、はいっ」
「はぁ。仕方ないな」
そして--
カインさんが今まで何をしてたのか。カインさんがなんで執拗に着いてきてたのか。ワケありのいろいろを教えてくれた。
まず、始まりは人の大陸ミッズガルズ。
その大陸にあるカインさんの故郷での出来事らしい。それはとある赤黒い髪の美女が現れてから始まったという。
異常な数の、日に日に増える人間の奴隷。
隣人、家族までもが奴隷となっていったらしい。カインさんはその時初めて何かの違和感を感じたとか。
家族や、隣人は何も罪を犯していない。誘拐されて売られた訳でもない。だから奴隷になる理由がない。
それに、奴隷は契約相手の許可、もしくは死亡以外に解除が出来ない。その契約相手がどこにも見当たらなかった。いくら探しても何を調べても見つからなかったらしい。
カインさんは1つの答えに辿り着いたらしい。
何者かがやっている。理由までは分からないけど、故郷を壊そうとしている、って。
カインさんは思い当りがあったらしい。それこそが、赤黒い髪の美女。彼女が故郷に現れてから変わったらしいから。
だからカインさんは陰で仲間を募って準備をしたって。そして一度奴隷解放の為に仲間と赤黒い髪の美女の所へと行ったらしい。だけど、そこには……
赤黒い髪の美女を恍惚とした表情で神を崇めるかの如く、豚の様にいいなりになる奴隷しかいなかった。
そしてカインさんの家族も。
唖然とするカインさんの表情を見て赤黒い髪の美女は--
「坊やも早くこうなりたくないかしら?」
って言ったんだって。その時に全部理解したらしい。この魔性の女が俺の故郷を壊してるって。だから仲間と共に戦おうとしたけど、そうならなかった。出来なかったって。
奴隷のみんなが赤黒い髪の美女を守っていたから。手が出せなかった。
だから必ず奴隷から開放するって胸に誓ってその場を離れたって。それから故郷の人々に声を掛けて大人数で故郷から離れたって。
でもそう簡単に逃げれる筈が無かった。
追手が来たらしい。友人、家族、兄弟。子供も大人も関係なく狂気に満ちた表情で。手に武器を持って。カインさんは剣を持てなかった。大事な人達に剣は向けれないから。
だけど追手の人達は操られているみたいに襲って来たって。だからカインさんは武器を持たずに守ったらしい。せめてもの自分に出来る限りの力で。
でも全ては守り切れなかった。守るだけじゃ手が回らなかったってのもあったって。1人、1人と斬られて倒れて。その姿を見ている事しか出来なかったらしい。何とか逃げ切った時には50人もいなかったみたい。
その生き残りを守る為に偽装のキャラバンを作ったんだって。
そして逃げた先のこの獣人の大陸ニダヴェールまで来た理由は2つあるらしい。1つ目が人の大陸ミッズガルズに残るよりは獣人の大陸ニダヴェールにいた方が安全だと思った事。もう1つが故郷を取り戻す為の協力者探し。
そして協力者探しの旅の途中に森の中にある、とある村へと向かったらしい。
その途中でカインさんは森の中で花を摘みにキャラバンから離れたらしい。それから花を摘み終わったカインさんはキャラバンへと戻ったみたい。だけどそこにキャラバンは無くて、代わりに魔物の襲撃の跡を見つけて慌てて森の中を探したらしい。
その途中で、とある村だった場所を見つけたって。
カインさんはその光景を見てこの世界に何かが起こっている、と感じたらしい。カインさんの故郷の様に。
カインさんはそれから3日程飲まず食わずでキャラバンを探し回って、最終的に助けを求めて街道で倒れてたそうで。
そして助けたのが僕達。だから死にかけた礼は本当にしたかったらしい。今でも。
カインさんは僕達の事を心配していたそうだ。あの村を壊した魔物がいるかもしれないから。だけど、キャラバンのみんなも気になってた。
だからカインさんは近くの村までは僕達を守りたかった。交易が盛んなパツール村にいるかもしれない仲間のキャラバンとも合流したかった。結果的に目的が重なったから守るついでにパツール村へと同行を願い出たらしい。
それが執拗に着いてきた理由。そしてカインさんの言ってたワケありの内容はキャラバンの生き残りって事みたい。
……でも本当に?
僕は何かが引っかかって不思議に思っていた。
カインさんってもっと出来る人のイメージがあるけど? 1人で花を摘んで、キャラバンを見失って、3日も森を彷徨って、死にかけて街道に?
んー? なんか、んー? なんだろ? 分かんないけど、なんか違和感? まぁいっか。カインさんは僕達を信じてちゃんと教えてくれたんだ。だからカインさんを信じておこう。うん。
「お前の言っていた責任が持てない、だったか? アレはなんだ? それに何故馬鹿みたいなフリをしてたんだ?」
話を聞き終えたアビゲイルさんは怪訝な顔をして聞いていた。
「全部話して、もし関係ない人を巻き込んだら責任取れねぇだろ? 今は俺に協力してくれるって言うから教えてんだ。嬢ちゃんが聖女じゃなかったら巻き込んでなかったかもしれねぇけどな。あと馬鹿なフリってなんだよ? 演技だ演技っ! 変な奴じゃないって思わせないと人攫いかもって思われるだろ?」
「……ふむ? 責任は理解したが、演技? 今と何か違うのか? お前今でも気持ち悪いではないか。クソな演技だな? ずっと素のままではないか? 人攫いそうな顔で何を言ってるんだ?」
「せ、聖女様? この馬鹿を助けてやってくれっ! きっと頭に何か--」
「ぼ、僕は聖女じゃない、ですけど?」
「あぁ、聖女じゃないな。天使だ」
「ふぇ!? て、天使とかでもないですってッ‼」
アビゲイルさんが真顔で言うからビックリした。僕はそんな大層な存在じゃないんだってば。
ただの人だから。たーだーのーひーとッ‼
「……あぁ? まー、嬢ちゃんの笑顔は神々しいよな」
「お前に言われると嫌なんだが、尊いのは確かだな」
「あー、尊いか。そっちの方が合うかもな」
うぅぅぅぅ。そんなに僕を持ち上げないでよぅ。恥ずかしいじゃんか。
「恥ずかしがってるユウは抱きしめたくなるな」
「お前の方が危ねぇんじゃねぇのか?」
「ユウ、害虫の羽音がうるさいよな? 叩き落とそうか?」
「おいッ‼ 俺はいつまで害虫呼ばわりなんだよッ‼」
あー、また始まった。僕達こんなんで先に進めるのかな?
でもそうか、カインさんは僕達を守る為に着いてきてたんだね。そしてカインさんの故郷か。僕に何か出来る事があるのかな?
僕は涼しい木陰の中で、いろいろと先が不安になったんだ。




