第33話 姉弟
「ただ言ってるだけ、ただやってるだけ、か」
僕はカインさんの言葉が何故か心に残っていた。もしかしたら僕も同じかもしれないって思って。
妹を救いたい。誰の涙も見たくない。争いのない世界にしたい。笑顔で生きれる世界にいたい。
確かに言葉にするのは簡単だよね。でも行動するにはどうしたらいいの?
この世界の妹の姿を知らないのに? この世界の人全て泣かない様にするとかどうやって? この世界の争いなんて止めれないのにどうやって? この世界の事を何も知らないのにどうやって?
カインさんの言葉だと僕は責任が無いみたい。だってただ言ってるだけなんだから。
何も出来ない。何も出来てない。僕はこの世界にいるだけ。珍しいらしい魔法が使えるだけのただの子供なんだよね。
きっと1人じゃ何も出来ないと思う。だったら、前みたいに手伝って貰えばいいんじゃないかな? 責任とか1人じゃ限界があると思うし。
生前まで僕と希はお互いの欠点を支えあって生きてきたんだ。だから困った事があっても乗り越えてこれた。1人じゃないから乗り越えられた。
だから僕には手伝ってくれる友達が必要なんだ。僕1人じゃ何も出来ないから一杯友達が必要なんだ。
この世界で目覚めてまだ日は浅いけど、友達はいる。 1人目はルナ。2人目は僕の中では決まってるけど相手次第。
多分、今困ってると思う。だから何か手伝ってあげたい。そう思うんだ、ルナ?
〈……あの人は……あっち……〉
ありがとう。さすが僕の親友だよ。
~~~~
「ブモォォォォォッッ‼」
「……ぅぅゎわああああああああぁっッッッ!?」
現在僕はルナが教えてくれた方向へと草原を爆走中。何か様子がおかしいって?
だって牛? の魔物がずっと追いかけてくるんだもん。ぎりぎり追いつかれない速度みたいだから逆に必死。死ぬ気で走れば追いつかれないからもう必死。
〈……あと少し……頑張れー……〉
ルナ、僕は、もう、はし、れない、はぁはぁはぁ……
「ユウッ!?」
目の前で湖を物憂げな顔で見ていたその人は僕に気付いてくれた。そしてすれ違いざまに剣を抜いて牛の魔物を倒してくれた。
た、助かったぁ。ぜぇぜぇぜぇ。
「こんな所までどうしたんだッ? 1人で来る場所ではないぞッ!?」
あー、たしかに1人で来る距離ではなかったね。村がどこか分かんないくらい走ったよ。ルナがいるから大丈夫だと思うけど。
「はぁはぁ、アビゲイルさんに、会いに、きたんだ」
「私に? 明日また、と言っただろう?」
「僕、言っときたい、ことがあって、さ」
ふぅー、だいぶ落ち着いた。マジ疲れた。
「僕さ、1人じゃ何も出来ないんだ」
「う、うむ? そうだな、子供1人じゃ色々と難しいだろう」
「うん。だからさ、アビゲイルさんに手伝って貰いたい」
「あぁ、それはさっき私が言っただろう? 責任が、無かったが」
「いや、責任とかじゃないんだ」
「責任じゃない? なんだ?」
「友達としてのお願い、なんだけど。友達にはなれないかな?」
「友達? いや、いいんだが、私が?」
「うん。僕はアビゲイルさんの事を友達だと思ってるんだ。友達だから助け合いたいと思ってる。僕はアビゲイルさんと一緒に楽しく生きてみたい。アビゲイルさんの家族にもちゃんと大丈夫だって報告したいし、さ」
アビゲイルさんは僕にとっても優しい。いつも僕を心配してくれる、お姉ちゃんみたいな人。
僕は助けられてばっかりなんだ。だから責任とか僕には関係ない。僕はアビゲイルさんという人を信頼している。
「……私は、ユウの事を死んだ妹と重ねて見ている。歳も近かったんだ」
「そうなんだ。僕もアビゲイルさんの事お姉ちゃんみたいって思ってるよ?」
僕はアビゲイルさんの顔を見て微笑んだ。なんだか姉弟になれたみたいで嬉しかったんだ。
「だから、心配なんだ。だから、もう2度と失いたくないんだ」
「でもアビゲイルさんが守ってくれるんでしょ?」
「あぁ、私はユウを守る。だが、だがッ‼ 村を、家族を殺した奴が許せないんだッ‼ 頭ではユウの事を守りたいと思ってるんだッ‼ それでも、心が復讐を求めているんだッ‼」
それがアビゲイルさんのやりたい事なんだね。もう一度妹を守りたい。でも家族を殺した人を許せない。なんだか僕と似ている。その気持ちが凄くよく分かる。
「やりたいようにやっていいよ? でも、友達だから間違えた時は教えてあげる。まずはもっと肩の力を抜いて深呼吸~」
「あ、あぁ? 深呼吸? スゥ~……」
「今は落ち着いた?」
「まぁ、落ち着いた。かな」
「僕とアビゲイルさんは友達だし、えっと、義理の姉弟だと思ってよ。だから不安とかあったらお互いに相談しよっ? これからも。ねッ?」
「フフっ。ユウには敵わないな。正直ユウを守るという覚悟の答えが出なかったんだ。だが答えは目の前にあったんだな。ユウがいる、ユウが私の最期の家族だ。だから守る。復讐よりも目の前の家族を守ればいい、それが私の答えだ。私の責任だ」
「そうだね、家族は僕も大事だよ」
「姉弟ならなんだ、その、妹なら、私の事はアビーと呼んでくれないか? そう呼ばれていたんだ」
「うん。これからもよろしくアビー、お姉ちゃん?」
「ッ!? う、うむ。よろしく、ユウ」
アビゲイルさんが間違ったら僕が教えてあげればいい。僕が間違ったらアビゲイルさんが教えてくれたらいい。
そしたら前みたいになんでも出来る気がするんだ。
僕と希みたいに、きっと。




