第32話 責任と信頼
「答えは決まったか、嬢ちゃん?」
僕達はお兄さんが待っている部屋へと戻ってきた。もちろん返事をしに来た訳なんだけど、まだ決心はついていないんだよね。ちなみにアビゲイルさんは壁に背を当てて腕を組んで聞いている。
「お兄さん、いくつか聞きたいんですけどいいですか?」
「今更だがお兄さんなんてガラじゃない。カインでいい。で、何だ嬢ちゃん?」
真面目な顔でお兄さんは僕に聞き返してきた。僕も真面目に聞かないといけないと顔を引き締めた。
「じゃあ、カインさん。僕が手伝ったら妹を探す手伝いをしてくれますか?」
「もし俺の故郷が支配から解放されれば、喜んで協力しよう」
「僕は回復魔法しか役に立たないと思いますけどいいんですか?」
「だからこそ、いや、それ以上に嬢ちゃんには期待している。いろいろと、な」
「いろいろ? 僕は戦えませんよ? 弱いですよ?」
「嬢ちゃんは戦わなくていい。魔法だけでも十分だ。俺が守ってやる」
僕はそこまで危ない事をしないでいいみたい。オークを余裕で倒せるアビゲイルさんとカインさんがいれば大丈夫かも。
「分かりました。僕は僕のやりたい事の為に、怖いけどお手伝いします」
「本当か!? 嬢ちゃん協力してくれるのか?」
カインさん、もの凄く嬉しそう。僕なんかが手伝ってもそんなに役に立たないと思うんだけどなぁ? でも無事に解放出来れば僕にとってはいい結果になりそう。
妹探しと、平和な世界。これってもしかして一石二鳥って奴じゃない?
「協力して貰えるんだったら今後の動きを説明したいんだが?」
「これから何するんですか?」
僕は小首を傾げて聞いてみた。あ、そういえば希もよくこんな聞き方してたっけ?
「あ、あぁ。それよりソイツはいつまでいるんだ?」
カインさんはアビゲイルさんを見ながら僕に聞いてきた。いつまで? そういえばいつまでって言ってたっけ?
「私はユウの護衛だ。行きたい街まではユウを守る」
あー、確かアビゲイルさんの村で言ってた。具体的に行きたい所がないからいつまでって無いのかも?
「護衛ぃ? お前がぁ? パツール村でいつ、誰を、守ったよ?」
「っぐ! だがッ‼」
アビゲイルさんがカインさんの言葉を聞いて身を乗り出した。反論を言おうとしたけど何も言えないみたい。拳をつくって震えてる。でも僕には何も言えない。
「お前が騎士だろうと、冒険者だろうと、護衛というなら守らなければならないだろう。『だが』? なんだよ? お前は勝手にどっかへフラフラ行って挙句に倒れてたじゃねぇか。ついでに言ってしまえば助けてくれてんのは嬢ちゃんの方じゃねぇか。なにが護衛だ。お前には資格がねぇ‼ 嬢ちゃんを守るって覚悟が全くねぇ‼ そんな奴が守るって言葉を安く語ってんじゃねぇッ‼」
「……」
「ア、アビゲイルさんには事情が--」
「嬢ちゃん、これは責任って奴なんだよ」
「責任?」
「責任ってのは、言葉と行動だ。言葉なんてモンはいくらでも作れるが、行動ってのは違う。やると決めた事をブレずに貫き動く事だ。この2つが噛み合って初めて責任が生まれる」
う、うん? 何の話ですか? なんか癖で小首を傾げてしまう。
「あー、嬢ちゃんには難しいか? 要するに、自分が言った言葉と行動が間違ってるって事だ。だから責任は生まれない。責任が無いからただ言ってるだけ、ただやってるだけなんだよ」
「自分が言った事と、違うことをしているから責任が無いってこと?」
「まぁそんなトコだ。ソイツにどんな事情があろうと関係ねぇ。言った事も守れねぇ、責任も持てねぇ奴に着いてくる資格はない。信頼がねぇんだよ。分かるか?」
「わ、分かるけどアビゲイルさんは僕の--」
「いや、ユウ、すまない。私はソイツの言う通り責任が足りなかった。少し頭を冷やしたい。明日また出直すから、待っててくれないか?」
「なら俺も明日また出直してやるわ。言っとくけど俺は本気だ。お前もよく考えて答えを出せよ?」
「あぁ。今回は、礼を言う」
そう言い2人は部屋から出て行った。 え?なんでこんなにギスギスしてんの?
み、みんな仲良くしてよ~?




