第30話 魔族の人狩り
「希、ノゾミは僕の双子の妹です。でも……本当?」
僕には信じられなかった。僕自身なんでこの世界にいるかも分かっていないのに。本当に妹なの? 本当に僕がいるこの世界に妹が来ているの?
「あー、……勇者が、言ったんだ。間違いないだろう」
何故か僕を見ながら言葉を探すようにお兄さんは教えてくれた。
勇者さんが僕の為に教えてくれたらしいけど、何で僕と妹の事を知っているんだろう? 勇者さんと僕は会ったことが無いのに? もしかして転生を知ってる? ルナが言ってたあの人って事?
〈……違う……別人……〉
そうなの? でも僕の為に教えてくれた事には変わりないよね? いつか会って助けてくれたお礼を言いたいんだけど?
〈……そうだね……もし会えたらね……〉
「おい嬢ちゃん急に大人しくなってどうしたんだ?」
「あ、いやごめんなさい。ルナと話を……」
「ルナ? 嬢ちゃんの中にでもいんのか?」
あ、ヤバいかも。変に思われた?
「ルナは私には見えないがセイレイだ。ユウを見守ってくれている」
「ふ~ん。なるほど、ね? 見守ってるねぇ?」
アビゲイルさんがフォローしてくれて助かった? でもお兄さんの目線が、痛い。絶対なんか怪しんでる目だコレ。
「ルナと話出来たりするか? 例えば……嬢ちゃんと入れ替わる、みたいな?」
「入れ替わる? そんなの出来ませんよ? 僕は僕だから」
「……? あー、そうだな。悪ぃ、変なこと聞いたな」
「……? いえ別に?」
んー? なんなんだろう? 僕にはよく分からない。
「おい。もう話はいいか? さっさとここから出ていけ」
「姉ちゃん、お前さっきからなんなんだよ? 嬢ちゃんの何な訳?」
アレ? また喧嘩? もうやめてよね。
「もうっ! 2人とも喧嘩はダメッ! 仲良くしてよッ!」
「ユウっ! 私は護衛として……いや言い訳はやめよう。すまない」
「俺もすまない。大人げなかったな」
意外と素直に僕の話を聞いてくれた。みんな仲良く! これ大事。よかった。大人の喧嘩は怖いからね。でもなんで僕に謝るの? 謝る相手が違うよ?
「……もう1つの話、いいか? これは嬢ちゃんの妹にも関わるかもしれない話だ」
「え? 希に?」
それは僕の予想してない内容だった。
まず、魔族とはなにか? 魔族はこの世界の4つの大陸のうちの1つ、魔大陸の種族。根源は未だに判明されてはいないけど、魔力が豊富らしい。ただ、魔力は多いけど身体能力はそこまで高くないらしい。
もともと人や獣人を受け入れず、内大陸だけで生き抜いてきた種族とのこと。今ではそこそこの魔族が世界にいるけど、どちらかというと穏和らしい。だから争いは無く、敵としての認識が無かった。
それが以前までのお兄さんが知る世界観の話。だけど、この世界観が変わりつつあるらしい。
それは、魔族の人狩り。
目的は分からない。突如として世界中で異様な虐殺が起こっているらしい。その一つがアビゲイルさんの村。そしてカインと名乗るお兄さんの故郷も魔族によって支配されているらしい。
ただ、お兄さんの故郷は他とは違うらしい。虐殺ではなくて、支配。どうやら魔族によっては趣向が違うというのがお兄さんの出した答え。
お兄さん曰く、乗っ取られたという形の破壊。
虐殺ではなく、人質。
人間ではなく、奴隷。
だからお兄さんは故郷の人達を解放する為に力を求めているのだそうだ。それは腕力だけの話ではなく、回復の魔法が使える僕も必要だという。
・・・・・
「だから俺に力を貸してくれないか!? 白の聖女様ッ‼」
突然僕に頭を下げてお願いするお兄さん。
聖女様? ……え? 誰の事?




