第27話 ルナがいるから
「無事でいて、アビゲイルさんッ‼」
僕達6人はアビゲイルさんがいるらしい方向を走っていた。途中で遭遇するオークは全て黄色い髪のお兄さんが倒してくれる。歩けない僕をゴリラ男さんが担いで走ってくれている。助けた他の3人も文句を言わずに着いてきてくれている。
僕はアビゲイルさんの事を心配していた。
オークを見てからいなくなったアビゲイルさん。きっとあの村での出来事を思い出したんだ。また1人で無茶しているのかもしれない。
だけど願いは通じず、僕は広場の入り口近くに倒れている人を見つけた。
「お、おいッ嬢ちゃん!?」
「ア、アビゲイルさんッ!? 大丈夫ですかッ!?」
僕は黄色い髪のお兄さんの制止を聞かずにアビゲイルさんに駆け寄った。目の前でアビゲイルさんは血を流して倒れているんだ。
少しふらつきながらも近付いて、膝をつき急いで状態を確認した。
意識はないけどまだ生きているッ‼ 早く魔法を使わないと……
「よォ‼ 白いのッ‼ お前の名前は何てェんだ?」
僕の目の前に褐色肌の黒い翼を付けた少年? がいた。獣人っぽくないけどこの村の生き残りなのかな? もしかしたらアビゲイルさんがこの少年を助けて逃がそうとしていたのかもしれない。お腹を怪我してる様にも見えるけど痛くないのかな? なら--
「ごめんねッ。ちょっと待ってて!」
僕はそう言い、いつものように魔法を使った。目を開けたけどアビゲイルさんはどうやら無事なようだった。よかった。
「間違いねぇよな? お前シロツキか?」
シロツキ? 誰だろう? 僕の事を言ってるの?
〈……気にしないでいい……それよりソイツから離れて……〉
この少年から? どうして?
〈……ソイツが元凶……だから危険……〉
ッ!? この少年が!?
僕はルナの助言に従い、後退るように少年から距離をとった。だけど身体が重く感じて思うように下がれない。
「オイオイッ‼ ダンマリかよッ!? だが、肯定ってことだな?」
少年は笑みを浮かべて僕を見ている。
「俺様超ラッキーッ‼ 一番乗りィッ‼ ヒャッフォーッ‼」
なにが一番乗りなんだろう?
そんなことよりあの少年、何だろう? 危ない何かを感じる? ただ僕を見て喋っているだけなのに?
どんどん空気が重く感じてきた。息をするのも辛く感じてきた。何? この感覚?
「オイッ‼ 嬢ちゃんッ早くソイツから離れろッ‼ 盾技スキル【守護陣】ッ‼」
僕の周りに黄色い膜が張られた。
「ウホッ‼ お連れの方は大丈夫ですッ‼ 早くこちらへッ‼」
アビゲイルさんを担いだゴリラ男さんが僕を呼んでる。
「チッ‼ うるせぇッ‼ ザコは黙ってろッ‼」
少年からとてつもない怖さを感じた。
同時に後ろで「ドサッ」と音がした。
振り返るとみんな糸の切れた人形のように倒れていた。
「なに? どうした、の? みんな?」
返事がない。ついさっきまで……
え? なに、が、あった、の?
「さぁ、邪魔者はいなくなった。大人しく、死ね」
少年が赤黒いオーラを纏って僕の方へと歩き出した。
死ね……?
また僕は殺されるの?
また僕は意味が分からないまま死ぬの?
なんで?
僕は生きていたらいけないの?
僕は悪いことをしたの?
どんな世界でも僕は受け入れられないの?
僕の頬を涙が伝う。
〈……ユウ、泣かないで? 絶望しないで? ……ルナがいるから……〉
ルナ? 僕は、あれ? なん、意、識が……?
〈……今はオヤスミ。……ルナが代わる……〉
僕はルナに言われるがまま意識を失った。




