第26話 異質な存在
「大丈夫か?」
僕の前に黄色い髪のお兄さんが手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます」
僕は素直に手を取った。だけどお兄さんは真剣な目で僕を見ていた。
「あの、どうかしましたか?」
僕は急いでアビゲイルさんの所に行きたかったけど気になって尋ねてみた。
「お前の力がもし本物なら、……後で話がある」
話? 今話せない程の? でも今のお兄さんはヘラヘラしていない。どうやら真面目な話みたい。助けた獣人の人たちはオークを警戒していてお兄さんの雰囲気に気付いていない。
「分かりました。でも今は助けたい人がいるんです」
「そうだな、すまない。で、どこ行きゃいいんだ白い嬢ちゃん?」
あれ? さっきまでの真面目な感じがなくなった? 今はヘラヘラ顔に戻ってる。なんだったんだろう? さっきの。
いや、今はそんな事考えてる場合じゃないんだ。
「あっちです。僕の……友達が危ないかもしれないんですッ‼」
ルナが教えてくれた方を指さして一歩を踏み出したけど、地面に膝を着いてしまう。このままじゃアビゲイルさんが……
「おぅ‼ グーアだったか? ちょっとこの嬢ちゃん担いでくれねぇか?」
「ウホッ!? 俺でいいんですかぃッ!?」
「変な事すんなよ? この嬢ちゃんのツレにマジで殺されるぞ?」
あー、うん。なんかビジョンが浮かぶかも。だからゴリラ男さん変なことはしないでね?
アビゲイルさんの技は肉片を作るから。
こうして僕は走るゴリラ男さんにおんぶされてアビゲイルさんのもとへと向かったのであった。
~アビゲイル~
私は鎧オークを駆除しながらもコイツを探していた。
「見つけたぞ。故郷の怨敵。忌々しい魔族めッ‼」
そしてパツール村の中央広場の真ん中で見つけた。
元々オークなど話にならない。
道端の石ころみたいなモノだ。
だけど今はもう違う。故郷を、村人を、友人を、家族を……全てを壊されたからには全てを壊す。オークだろうが例え一端に過ぎなくても関わったからには見逃さない。
だが、コイツは違う。コイツだけは家族の最期を知っていた。なら一番大事な家族を、妹を殺したのはコイツだ。そもそもオーク共を指揮していたのもコイツだった。どう考えても元凶はコイツなんだ。
私の敵だ。
「あぁ? 誰だテメェ? ……オオカミのザコじゃねぇか。なんでここにいる? チッ! オーク共じゃ力不足でしたってかぁ! っざけんじゃねぇぞッ‼ 無駄な労力増やすなよックソがッ‼」
言いながら赤黒いオーラを身に纏う魔族。
どうやら今回は逃げずに戦うみたいだ。
私の口元はニヤついてしまう。
やっと殺せる。
やっと救われる。
「何笑ってんだ、よッ‼」
コイツは一瞬で間を詰め蹴りを放ってきた。だが、私には見えている。……遅い。
「秘剣技 【炎刺】」
蹴りを避けざまに刺突を繰り出す。
「ッ!? 痛ッ、なッ!? ゥグワアァッッ‼」
私の攻撃は二段攻撃だ。刺されたら爆発的に燃える。正確には突き刺した剣先から第1魔法が体内で燃え上がる技。
父から教わった一族の秘剣。単純なようで達人の域。剣技に魔法を組み込むだけではない。剣先に魔力の遅延操作を行い限られた時間内に刺さなければ意味がない。ただ燃えた剣で斬るだけなど大した技ではないんだ。そもそも当たらなければ効果もない。
剣と魔法が一流に扱えないと使えない技だ。これが私の最高の奥技。
あっけなかったな。私は倒れる魔族を見届け背を向けた。
これで父の無念は張らせただろうか? こんな魔族に殺された妹は報われるだろうか?
しかし--
「……くッくッ。ハァッハッハッハッ‼ 痛ぇッ‼ この感じ久しぶりだッ‼」
まだ生きているッ!?
私は振り返るが魔族は燃えながらも倒れたままだ。間違いなく秘剣は当たった。手応えもあった。
今の私にこれ以上の剣はない。私は驚きを隠せなかった。だが私が身構えても起き上がろうとしない。
「あぁー、痛ぇ。テメェ、ザコの割には強ぇなぁッ‼」
言いながらゆっくりと起き上がる魔族。炎は消えたが、刺した筈の傷は間違いなく残っている。何故動ける? 何故笑ってられる?
「だが足りねぇッ。俺の相手にゃならねぇ、ぞッ‼」
そして消えた。
「ぐぁッ!?」
私は何かに殴られた。さらに凄まじい衝撃が全身を襲い地面を転がり吐血する。
さっきまでの速さじゃない。尋常じゃない。なんだコイツは?
「グゥッお前はッ、なんだ? 何者だ? 魔族ではないのかッ!?」
普通の魔族はただ、魔力の多い獣人みたいなものだ。見た目は違えど人と大差ない。しかし目の前の子供姿の魔族は明らかに異質だ。
この世界の生き物ではないみたいだ。
「はぁ? ま、いいか。俺は*************」
なんだ? 聞こえてるのに理解が出来ない?
一体なんなんだコイツは!?
「まー、理解できねぇだろうがな。殺す前に1つ聞くぞ? ここに白い女、いるか?」
白い女? ……私は多分、知っている。
「お、おいッ嬢ちゃん!?」
「ア、アビゲイルさんッ!? 大丈夫ですかッ!?」
あの子は……真っ白なあの子は……
「ヒュゥッ! ビンゴォッ‼」
せめて、逃げて、生き延びて、くれ、ユウ……
身動きできない程のケガにより、私はそのまま意識を失ってしまった。




