第23話 嫌な予感
「ユウ、もうすぐでパツール村だが大丈夫か? 少し休憩するか?」
アビゲイルさんが心配そうに聞いてくれる。僕達は休みなくずっと街道を歩いてきた。今も歩いている。
さすがに疲れたかも。足が棒みたい。悪いけど、休もうかな?
〈……ユウの魔法で……治せるよ? ……〉
わっ!? ル、ルナか。本当? やってみたいけどまた気を失わない?
〈……イメージが強すぎなければ……問題ない……〉
イメージ? 強い光とか言ってたやつ?
〈……そう……それ……〉
本当に大丈夫?
〈……大丈夫……ルナがいるから……〉
じゃぁ、やってみようかな。
「アビゲイルさん、そこでちょっとだけ待ってて? すぐ終わると思うから」
「ん? なにかするのか?」
横で歩くアビゲイルさんに僕は「魔法です」とだけ言い、その場に立ち止まり目を閉じた。そして弱い光をイメージした。
弱い、弱い……ロウソクの火でいいかな。
〈……それくらい……かな……〉
両手を足元に向け、イメージしながら口に出す。
『治れっ!』
僕の中の何かが抜け出る感じがするけど全然大丈夫みたい。気付くと僕の足は痛くもなんともなくなっていた。目を開けた僕は初めて魔法を体感出来て嬉しくなった。
「や、やった! 僕にも魔法が使えた! 全然痛くない!」
屈伸したりジャンプしたりして確かめてみた。魔法凄い! ファンタジーだ‼
アビゲイルさんを見てみると何故か驚いていた。ちなみに黄色い髪のお兄さんは前を見ているからか気付いてない。
「な、それがユウの魔法? 光の、まさか第7魔法……なのか?」
第7魔法? なにそれ? 僕はこの魔法しか知らないけど7番目なの? 1番ってなんだろ? 強いのかな? 凄いのかな?
「おいッ姉ちゃん達‼ アレ見ろ‼ パツール村が見えるけど様子がおかしい‼」
僕がこの世界の魔法の事を考えていたら黄色い髪のお兄さんが真剣な顔で伝えてきた。
確かに大きめの集落が遠くに見えるけど、遠過ぎて僕にはピンとこなかった。だけどアビゲイルさんの反応で分かった。
「ッ!? 何故黒煙が? ユウッ! 悪いが急ぐぞッ‼ 嫌な予感がする‼」
何かがパツール村で起きてる? それに嫌な予感?
もしかしたら僕の魔法が役に立つのかもしれない。
「はいッ! 急ぎましょう‼」
僕達は急ぎ、パツール村へと駆けだした。
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パツール村。
人口800名程の中規模な獣人の村。のどかな田舎村だが、ここで作られる白麦と白リンゴが評判がいい。なので交易のためによく商人が訪れる。
と言う事を昨日アビゲイルさんから聞いていた。
その村が今、目の前で燃えている。
そして、魔物と獣人が倒れている。
どこかで金属と金属がぶつかる音がする。
僕たちは通門所らしき所を通り抜け、パツール村の中まで入ってきた。
「なに? これ、魔物が襲ってきたの? なんで? ...酷い」
僕はまた争いの場にいる。当然の様に人が倒れ、死んでいる。この世界で目覚めてから平和な場所を見たことがない。
そんな僕に気付かずに、倒れている魔物を見たアビゲイルさんは目を見開いた。
「鎧の、オークッ‼ まさか……まさかッ‼」
僕が止めるまでもなく、アビゲイルさんは燃え盛る村の中へと消えていった。
「えっ? アビゲイルさん?」
アビゲイルさんの顔は鬼気迫るものがあった。どうしたのか分からない。そんな僕の横で黄色い髪のお兄さんも呟いた。
「クソッ! コレもあの女の……? 生き残りは、アイツらは無事なのか?」
あの女? 生き残り? このお兄さんの訳アリって?
「キャーーーーーッ‼」
悲鳴が聞こえた。どこかでまだ生きている人がいるッ!? 僕と黄色い髪のお兄さんはハッとなり、悲鳴が聞こえた方へと走るのであった。




