第21話 アレは何?
現在僕とアビゲイルさんは2人で街道を歩いている。近くの村までは歩いても半日程度らしいのでいろいろと教えてもらいながら進んでいた。
「ねぇ、アレ何かな?」
「あぁ、アレはヤワ草だ。使い道はないがそこそこ柔らかい」
……。
「ねぇ、アレは?」
「あぁ、アレはヒカリ草だ。明るくなりそうな名前だが、それほどでもない」
…………。
「じゃあ、アレは?」
「あぁ、アレはヤク草だ。頭がおかしくなるから絶対に触るな」
なんて役に立たない草たちなんだッ‼ 形が変わってるから期待したのにぃ。冒険と言ったらまずは散策でしょっ!?
ロクなものがないじゃないか。
ってか最後のヤク草はやくそうじゃないのか。アレだけは危ない奴だ。覚えとこう。
それからまた少し歩いてると意外なものを見つけた。
ん?あの草光ってる?
「ねぇ、あの光ってる草は?」
僕が指さしてる草を見て「ん?光ってる?」と言うアビゲイルさんだけど--
「あぁ、アレはエリ草だな。塗り薬にして使う治療薬になる。珍しいなこんな街道で……ユウ、いざという時の為にとっておいた方がいい。……んむぅ?(光ってる?)」
「あーい。分かりましたー」
流石だなぁ冒険者アビえモン。草でもなんでも教えてくれる。
なんて考えながら僕は歩いてエリ草という光る草を摘みに行く。アビゲイルさんは口に手を当てなんだか考えてるみたいだけど、どうしたんだろう?
「これがエリ草か。よしっと、ん?」
僕はエリ草を摘みとり、振り返ろうかと立ち上がった時に前方に何かを見つけた。あれはー、んー、なんだ? 人? ちょっと遠いから分かんないや。
「アビゲイルさーん‼ アレはー何ですかーッ?」
少しアビゲイルさんとの距離があるので指さしながら大きな声で聞いてみる。獣人の目なら見えるかな? って思っただけなんだけど……
「あぁ、アレは人だな。多分行き倒れじゃないか? ん?」
アビゲイルさんはさっきまでの問答の流れで答えたけど、気付いたらしい。僕もアレが何か分かった。そうか、人が倒れてるのか。
「「人ッ!?」」
僕とアビゲイルさんは急いで倒れている人へと駆け寄ったのであった。
「いやぁ、助かった。ありがとう可愛い姉さん達」
倒れていたこの人はどうやら空腹で倒れていたらしい。見た目は黄色い髪にターバンを巻いたハンサムな青年。恰好はなんとなく商人っぽいけどちょっとお金持ちっぽい感じがする。
この人の話だと、自分が率いるキャラバンの商隊からこっそり外れてお花を摘みに行ったら見失い、迷子になったらしい。
「本当にツイてない。あんなに可愛い娘にフラれるなんて。それにアイツら待っとけって言ったのに……だが俺はツイていた‼ 目の前にこんなに可憐な花が2輪も咲いているじゃないかッ‼ 神は私を見捨ててなどいなかったのだッ‼」
あ、駄目だ。この人駄目な人だ。ちょっと怖い。ほら、隣のアビえモンの思考も停止しているよ? この人本当にキャラバンの商隊の人なの?
僕とアビゲイルさんは白い目で疑った。
「まぁまぁ、疑んなって。5ミリ程度の冗談だろ? 礼ぐらいはさせてくれ。……ちょちょっと待てって‼ 金ならあるから! 嘘じゃねぇって! ほらッ‼ おいッ‼ 聞いてくれッ‼」
僕とアビゲイルさんはこのお兄さんが大丈夫そうだから話の途中で去ろうとしたのにやたらと食い下がってくる。
僕たちの貴重な食糧を無駄にしたかもしれない。でもいいか。人助けは悪いことじゃないしね。……だけど、ずっとついてこられても困るなぁ。
「うん。じゃあまた会いましょうお兄さん。では」
そう言う僕に「なんで!?」と驚きながらも追いかける青年であった。




