第19話 事件とお姉ちゃんと初めの一歩
「全く、大丈夫か？ なんでそんなに鼻血が出るんだ？」
僕とアビゲイルさんは結局一緒にお風呂に入った。この村では家にお風呂がなくて、共有風呂として銭湯みたいな建物があるみたい。
そのお風呂場での事件だ。名付けるなら『湯煙ダイナマイトバディ事件』だと思う。犯人はそう、アビゲイルさん。この綺麗なお姉さんは凶器という名の呪いを素肌に着ていたんだ。
いや、その、イロイロと、凄すぎて……ちょっと僕には刺激的過ぎたかも。
逃げられないならせめて、獣人だから少しは動物っぽいって思えば、なんて考えが甘かった。
尻尾がある以外体毛全然ないじゃん、とか。めっちゃ腰くびれてんじゃん、とか。声に出せずに固まって、視線が釘付けになるほどダイナマイトだった。
お、お母さんと全然違った。なんか凄いエッチな、あの、あれ、だった、よ？ あぅ。
そんなダイナマイト美人が裸で嫌がる僕の服を脱がして浴場に連れて行って……それで、僕の身体がちゃんと女の子で、その、胸もあって……えと、僕の身体を、その、いろいろ、……あぅ。
あ、ヤバい。思い出したらさらに鼻血出そう。
現在僕たちは風呂に行く前までいた家に戻って、僕は上を向いて首をトントンしていた。
「そんなに貧弱でこれから生きていけるのかユウ？」
「だ、だいひょうむでひゅッ！」
心配してくれるアビゲイルさんに僕は素直に答えた。……あ、鼻血止まったみたいだ。あれだ、きっとのぼせてただけなんだよ。その、エッチな、あのアレとか、じゃ、ないよ？ うん。
「こんな僕でも魔物がいなければ多分大丈夫です。町に着けばどうにか出来るとは思います。魔法も使えますし」
多少は見栄を張った。日常の記憶とゲームの知識があればどうにか出来ると思う。いや、実際は分からないんだけどアビゲイルさんに迷惑をかけたくない。変に気を使って欲しくはないんだ。だってアビゲイルさんにはアビゲイルさんの人生があるんだから。
「んむぅ？ そうか？ 今日はとりあえず早く寝て、明日に備えるぞ」
そう言うアビゲイルさんの手錠によりやはり手首を捕まれ寝室へと連行されるのであった。
なんだか妹が大好きなお姉ちゃんみたいだった。
翌日。
朝だ。思ったよりよく寝れた。アビゲイルさんが近くにいてくれたからか安心して寝れた。
僕が寝室を出てリビングに入ると声がかかった。
「おはようユウ。昨日はよく寝れたか？ 朝ご飯を食べて、準備が出来たら行こうか？」
アビゲイルさんが朝食を作って待ってくれていた。こんな美人な奥さんだったらどんなに幸せなんだろう？ まぁ、僕は女の子になってしまったからご飯を作る側かもしれないけどね。先の事はその時に考えればいいか、と僕は妄想しながら席に着いた。
朝食を食べ終えて、準備が整った僕たちはお世話になった家を出た。そして、アビゲイルさんの家族が眠るお墓へと行って、2人で黙祷をした。
「父よ、妹よ、私はまたこの村を出る。だが、必ず帰ってくると約束する。そしてあの誓いも必ず果たしてみせる。……では、行ってきます」
誓い？ 僕には分からないけど個人的な事みたい。
〈……知らなくてもいい……彼女の運命だから……〉
ルナが一体何をどこまで知っているのか分からないけど知らなくてもいいならそれでいいんだろうね。僕はルナを信じてる。いつも助けてくれるしね。ルナはこの世界の初めての友達だから僕はルナの事を信じるよ。
〈……友達？ ……フフッ、ありがと……〉
「ユウ行くぞ？ 野宿しないためにも早く出て夜までに近くの村まで行かなくてはならない」
「あ、はいっ‼ すぐ行きます！」
僕はアビゲイルさんに声を掛けられて慌てて走った。アビゲイルさんは笑顔で僕を向かい入れてくれる。だから僕も笑顔で走り、アビゲイルさんの横に並び歩き出した。
今、僕は一人じゃないんだ。僕にはアビゲイルさんやルナがいるんだ。大丈夫。きっと僕でも出来ることはある‼
明るい太陽が僕を照らしている。
その光はどこか懐かしく、温かい。
僕はこの世界を旅する最高の初日だ、と感じながら一歩を踏み出すのであった。
