第17話 鏡に映るユウの姿
ルナに言われた事を説明して僕はアビゲイルさんに鏡を持って来てもらった。受け取った僕はリビングで手鏡を持って、ただその場に立っていた。それはただの手鏡なんだけど、ね。
まだ見ていない。まだ見れない。
なんか怖い。今の自分を見るだけなんだけど。怖いものなんてないはずなんだけど。
それでも僕はためらってしまう。
僕は不安だったからアビゲイルさんを見た。アビゲイルさんは「不安なら無理しないでいい」と言ってくれた。
僕は鏡の中の自分を見たら何か変わっちゃうんじゃないかって不安なんだ。だけど僕は自分が知りたい。ここにいるワケを知りたい。前を見るって決めたばかりじゃないか。
だから意を決して、鏡を見た。
……そこには白髪の女の子がいた。
お姫様カットにしている髪は思っていたよりはサラサラな白。
タレ目気味だけど大きめの目にはオオカミのような灰色の瞳。
小さな口にある唇は綺麗なピンク。
あどけなさが残る色白な可愛い少女の顔。
この顔を、僕は知っている。この女の子の事を誰よりも知っている。目が、離せない。
「……希? いや……」
記憶にある妹とは髪や瞳の色が違う。だけどこの女の子は間違いなく妹と瓜二つ。でも目が違う。妹はどちらかというとツリ目だった。
だから思った。
僕に似ている。
顔立ちは妹よりもあの頃の僕に似ている。いや、僕だ。髪が伸びているし、色が違うけどここにいるのは僕。
双子だったからよく似ていた。もともと女顔だったからいつも姉妹と間違われていた。家族以外の周りの人からは男なのにヤンチャな女の子としか見られなかった。
その女の子が目の前にいる。髪を伸ばして、女の子になった僕がいる。
知らない顔の女の子だと思ってた。死んでモンスターがいる世界に転生したと思ってた。
だけど僕がここにいる。死んだはずの僕がこの世界にいる。女の子の身体だけど僕だ。
いや、もしかしたらたまたま似ている女の子に?
〈……ユウはユウでしょ? ……分かる? ……〉
ルナの答えを聞き、僕は目を閉じて確信する。僕は、僕。それは誰でもない僕への言葉だった。
そうだね。僕は僕だったみたいだ。
〈……今も前も……ユウはユウだよ? ……〉
じゃあルナは? 君は一体? 姿が見えないのはセイレイだから?
〈……ルナはルナだよ? ……今も昔も……〉
そこは教えてくれないのか。
じゃあなんで僕は女の子になっているの? なんで死んだはずの僕は今も生きているの?
〈……知らない……いつかあの人に聞いて……〉
あの人? 原因を知っている人がこの世界にいるんだ……僕はいつか会えるのかな?
ルナ、最後に1つだけ教えてほしいんだけど。この世界は地球、なの?)
〈……残念だけど……違う……〉
そっか。でも分かった。もっと早く聞けば良かったよね。いっぱいいっぱいだったから誰かに聞くという事を忘れてた。1人で悩んでも答えなんて分かるはずないよね。学校でも先生に教えられたんだった。
この身体は間違いなく僕の身体だと知った。
でもルナは正体を教えてくれない。
女の子になって生きている理由を知っている人がこの世界にいる。
そしてこの世界は僕のいた世界じゃない。
僕の知りたい事の答えがほぼ分かった。全部じゃないけど僕の疑問、不安は解決した。
スッキリした。
僕は僕として生きていくしかないんだね。 そして自分の為に生きるしかないんだよね。暗い心にやっと光が差した気がする。
家族にはもう会えないということは流石につらい。でも、やっと現実と向き合える。ルナの言うあの人とやらにも会ってみたい。
実は何も知らないけど僕はこの世界を好きになれるかもしれないと思っていたんだ。だってモンスターや魔法があるファンタジーな世界なんだよ?
子供だからかワクワクが止まらない。明るくなった僕にアビゲイルさんが口を開いた。
「いい顔になったな。私は先ほどまでの不安そうな顔よりユウのその顔が好きだぞ?」
美人に好きとか言われたら頬が熱くなる。
「ぼ、僕はルナと話してやっと前を見ることが出来そうです。えと、記憶が少し戻った? というかやりたいことが出来ました‼」
アビゲイルさんは微笑みながら「なんだ?」と聞いてくれる。
「世界を、僕の知らない世界を見てみたいですっ‼」
僕は僕のやりたいことをしたい。
その初めの一歩は未知なるファンタジー世界への興味だった。




