第12話 木の十字架
僕とアビゲイルさんは100を超える魔物から魔石を回収し、アビゲイルさんの言っていた廃村へと向かっていた。なんでも最近廃村になったばかりで、森で一夜過ごすくらいなら野宿より安全だかららしい。
ちなみに僕は未だに肉片の感触を忘れられずにいた。数日は肉を見たくない。だって、グチャって、ネチョって……思い出したらまた嫌な気分になる。やめよう。うぇ。
「ねぇ、アビゲイルさん?あと、どれくらいで着くの?」
僕は気分を変える為にもアビゲイルさんに話を振ってみた。それに夕方が近いからか空がオレンジ色になってきてるんだ。早く着かないと夜になりそう。
「もう見えてくる筈だが、ほら。ユウにも見えてきただろう?」
たしかに。まだ少し遠いけど、村? っぽいのが見えた。
…………
それから何事もなく僕とアビゲイルさんは無事に廃村へと辿り着いた。
アビゲイルさんは村に着いてから物憂げな表情で口数も少なくなってた。どうしたんだろうとは思ったんだけど、とりあえず周りを確認してみた。
最近廃村になったばかりだと言っていたけど、すぐにでも住めそうなほど荒れてない。たしかに朽ちかけた家や、火事で焼けた家? もあるけど。ここって本当に廃村なの? んー? でも人はいないみたいだしなぁ。
移住? でもしたのかもしれない。周りの森には魔物がいるしね。
僕が呑気に廃村の事を考えているとアビゲイルさんから「来てほしい所がある」と、村一番の建物の裏手の方へ案内された。
なんだろうと思いながら着いていくと・・・
そこには2つの木の十字架が不格好な状態で土に刺さっていた。僕でも分かった。きっと誰かのお墓だろう、って。アビゲイルさんは十字架の前へと歩き、片膝を地面に着けて両手で祈るポーズをとった。
それから数分の黙祷のあと、アビゲイルさんは口を開いた。
「もし……もしもなら、ユウになら……ユウの魔法なら、どうにか、出来るだろうか……?」
振り返るアビゲイルさんは涙を流していた。僕を見るその瞳が何を求めているかそんなの分かってる。
〈……死んだ人間は……生き返らない……〉
ルナは僕にそう呟いた。
それは僕でも分かるよ。いや、転生した僕にはなにも言えないかも。本当に生きてるのか死んでるのかよく分からないから答えれないよ。でも、なんとかならない、かな?
〈……魔法は……万能じゃないから……ユウには無理……〉
やっぱりそうだよね。僕は神様とかじゃないんだから。
「……僕は……力に、なれません……」
「……すまない。そもそも生き返るなんて夢物語なんて無いのにな」
アビゲイルさんは泣きながらも僕に笑ってそう答えた。そんなアビゲイルさんを僕は見ていられなかった。
辛いのにちゃんと現実を見ている。
辛いのに僕の前で笑ってくれている。
大人なんだ。僕には真似できない。
「この村は私の故郷なんだ。そして、ここには父と妹が眠っている」
僕はなにも言えなかった。
最愛の家族の死。僕には耐えられない。
だからちゃんとアビゲイルさんを見る。辛いだろうアビゲイルさんの言葉をちゃんと聞く。
それが今の僕に出来る事だから。
「最近廃村になったって……何か、あったんですか?」
僕の質問にアビゲイルさんは頷き、語りだした。
「……つい3日程前、この村は奴らによって全てを奪われたんだ……」
僕の目を見てアビゲイルさんはこの村で何があったか教えてくれるのであった。




