第11話 僕の名前はユウ
僕たちは無事にオオカミの群れを倒した。正確にはアビゲイルさん一人でだけど。
「すまないお嬢さん。いろいろと聞きたいことがあるのだが、少しだけ時間をくれないか?」
確認してくるアビゲイルさんに僕はどうぞ、と頷いた。僕も聞きたい事がたくさんあるんだけど、急ぐ必要はないから。
アビゲイルさんはオオカミの死骸へ歩いて近付き、腰にあるナイフを取り出し刃を立てて体内から何かを取り出し始めた。何かを取り出されたオオカミの死骸は霧となって消えていった。
「あれ? オオカミが消えた???」
僕はアビゲイルさんが何しているのか分からなかった。
「あの、アビゲイルさん? 何してるのでしょうか?」
アビゲイルさんは手慣れた動きでオオカミの死骸から紫の結晶を抜き出して、腰の袋に入れていく。なんだろう? あのクリスタル。宝石でも食べたのかな? 僕の疑問にアビゲイルさんは手を動かしながら答えてくれる。
「ん? 知らないのか? この魔石はギルドで売れるのだが?」
「魔石? ギルド? で売れるの?」
魔石やギルドはゲームでよく出るからなんとなくは分かる。ただ、僕の知る現実には無かったものだから当たり前に言われても困惑するんだけど。
「んむ? あぁ、私はギルド冒険者だから稼ぐ方法はこれしかない」
ギルド冒険者? なんだその職業? フリーターみたいなノリで教えてくれるけど命張り過ぎじゃない? ってかこのオオカミもそうだけど、なんでこんなにモンスター? がいるの?
いや、そもそも赤い尻尾を揺らして頭の耳をピコピコさせてる獣人なんて存在が答え、だよね。
正解か分からないけど、僕はここにいるという事を今初めて理解した気がする。
ここは僕の知らない世界。家族や友人、希のいない世界に僕はいるんだ。
不思議と悲しみはなかった。むしろ変な不安がなくなり気が晴れた気がする。
僕はあの時やっぱり死んだんだ。生まれ変わって何故か僕のままこの世界にいるみたい。
そしてルナ。どこを探しても見つからないけど声はいつも僕の近くにあった。薄々感じていたけど、ルナはきっと僕なんだ。きっと僕がルナの身体に転生してしまったんだ。だから、ずっと一緒って言ったんだと思う。
でも僕はルナに何もしてあげられない。
まるで物語の世界。ゲームの中の主人公みたいな話。
なんで僕なんだろう? なんで生きてるんだろう?
「どうしたお嬢さん? 浮かない顔して? この魔物は人に害をなす。倒さなければいずれ人を襲うから駆除しないと...ど、どうしたっ!? 何故泣いているんだ!?」
「え? あ、すいません、大丈夫です」
目から溢れる涙を僕はゴシゴシと拭った。
そして僕はルナの為にも生きなければいけないと前を向いた。月城 優はあの時死んだんだ。今から新しいこの命で生きていかなきゃ。だから--
「僕の名前はユウっていいます。アビゲイルさん、僕にこの世界を生き抜く方法を教えてください」
僕は過去を捨てて、今を生きる事を決意した。もう失うものは何もないんだ。前をしっかり見なきゃ。
「そ、そうか。分かった。ユウ、話は近くに廃村があるからそこでしよう。その前に--」
アビゲイルさんは僕の背後に視線を送った。
「この死骸全ての魔石を回収するのを手伝ってくれないだろうか?」
目の前には肉片にされたオオカミの死骸がある。
そして100を超えるオークの死骸もある。
「ふぇぇぇっ!?」
僕は前を向くより先にまず目の前の肉片を見ないといけないようです。




