第107話 僕の決意
「……ごめんなさい」
僕は綺麗だった部屋の床に穴を開けてしまった。このボロボロな孤児院にさらに穴を増してしまったんだ。それでも誰も僕を怒ったりしない。悪い事をしたのに誰も文句を言わないんだ。……攻めてくれた方が楽なんだけど?
悪い事をした自覚があったから僕は誰に言われるでもなくその場で正座をして頭を下げた。実際にやるのはノゾミを怒らせた時ぶりだ。そう、土下座。僕の精一杯の謝罪の形だ。
「せ、聖女様ッ!? 頭をお上げになってくださいッ! 私もお母さんも誰も怒ってないですからッ‼ 床くらいみんなで協力したらいくらでも直せますからッ‼」
ケイトちゃんが僕の腕を持って立たせようとしてくる。いや、ケイトちゃん、僕は調子に乗り過ぎただけなんだ。ちゃんと謝らないと。
「聖女様、大丈夫ですよ? それにモノを直すという経験は子供達にも必要です。当たり前という考えはこの町には存在しませんからね」
「この町にはって?」
僕は気になって頭を上げた。正座は崩さずにね?
「この町は海の上にありますからね。津波などで町はよく建て直されます」
あー、この世界にも津波とかってあるんだ? だったら台風とか地震もありそうだよね? 僕がいた世界と変わらないのかな? それで直すという当たり前がこの町にはある訳だ。
「それでも僕が穴を開けてしまった事には変わりないです。ごめんなさい」
結果が現実だって教わったんだ。だから僕がやってしまった現実に向き合わないといけない……という意地のような意思をもって頭を下げた。
だって人のお家壊したんだよ? ヘラヘラ笑って帰る訳にはいかないよ。少なくとも僕だったら怒るね。怒ったところで直らないんだけどね?
「えー、っと……どうしましょう? レイン?」
「えっ!? 私っ? んー、……ユウちゃんはちゃんと反省してるでしょう? もういいんじゃないの?」
ここで甘えたら駄目な気がする。前の世界だったら気にせずにホッとしてたと思う。だけどここは何が起こるか分からない世界なんだ。穴自体が問題なんじゃない、甘えた考えが問題なんだ。
小さな事でもちゃんと見ないといけない。何があろうと前を向かないといけない。ここはモンスターがいる危険な世界なんだ。子供のままでは生きていけない、誰も救えない世界なんだ。甘い考えを持ったままだといずれ取り返しのつかない出来事がくると思う。
「僕は、……甘えた生き方で後悔したくないです。誰かに頼ってばかりじゃなくて、自分の力でしっかり前を向いて胸を張って生きていきたいんです」
頭を下げて床を見たまま僕は決意を口にした。
僕はまだ子供だ。でも、子供だからって甘えていい世界じゃない。ずっと頼っていいハズなんてない。いつかは必ず1人になる。その時に何も出来なければ僕は死んでしまうと思う。だから……
「ただ言ってるだけ、ただやってるだけの無責任な人間になりたくないです。僕は僕の決意に『責任』をもって出来る事をしたいんです」
僕はもうただの小学生じゃない。10歳だけどこの世界じゃ僕という主人公だ。生きるも死ぬも、何をするにも誰かの許可なんてない。ただ、やるか、やらないか、の世界なんだ。
僕は妹と一緒に生きる、もし可能なら元の世界へ帰る。やると決めたんだ。逃げるような甘えた考えは僕の決意という『責任』をうやむやにしてしまう。だからもう逃げない。甘えない。誰の為でもなく自分の為に。
「……頭硬いというか、純粋というか……だったらユウちゃん、その穴を直しなさい。自分の責任に向き合ってそれを形にしたら納得するでしょう?」
「は、はいっ! 頑張りますっ!」
レイモンドさんや、シスターさんは僕の返事に笑顔で頷いてくれた。ケイトちゃんは僕の事を心配そうに見ていたけれど。
床を直すだけなんだ。大丈夫大丈夫。
僕は直すという大変さを知りもせずにただそう考えていた。
すいません、風邪をこじらせてしまいました。
コロナじゃないみたいで良かった。
まだ頭痛いし微熱ではありますが、無理せずに更新していくつもりです。




