第106話 僕が主人公なんだ
僕達はシスターさんのおもてなしを受ける為に孤児院へと向かい、案外綺麗な部屋へと案内された。ボロボロなのは一部の部屋だけで思っていたよりは住める環境みたい。……外の見た目だけで決めつけちゃってたよ、ごめんね?
「改めて感謝を、聖女様。ここは貧しいながらも、帰る場所を無くした子供達に未来を紡ぐ場所。私ごときの小さな命でも子供達の支えである自覚はあったのですが……聖女様の慈悲に感謝以外の言葉はありません」
なかなかに重たい事を言いながら深々とお辞儀を向けるシスターさん。……本当にごめんなさい。僕は何も考えずに助けたいから助けただけなんだ。出来る事をしただけなんだよ? それにこの孤児院ボロボロだったから本当に住めるのかどうか疑ってたんだ。
「……ごめんなさい。僕は、出来る事をやろうとしただけです。そこにいるケイトちゃんの頼みが無ければここに来る事は無かったと思います。ケイトちゃんに出会っていなければ違った未来だったと思うんです」
「せ、聖女様っ……」
僕の言葉にケイトちゃんは暗い顔になった。だけど本当の事だからね……たまたま汚水処理場で見つけた女の子を助けて、たまたま僕が第7魔法を使えただけなんだ。そもそも出会ってなければここには来ていないと思う。
「ま~ね~、ユウちゃんの言いたい事は分かるわ? ね、お母さん?」
「えぇ、聖女様の素直なお気持ち感服致しました。お考えになっている答えは間違えではないです」
そう言いながら2人は僕を見て微笑んでいた。僕は自分勝手にやりたい事をしただけなんだよ? 偶然シスターさんを助けたってだけなんだよ? なんで笑っていられるの? 僕は理解出来なくて小首を傾げてしまう。
「偶然でも必然でも今こうしていられる事が事実です。聖女様が私を、孤児院を救って下さった。それだけが今現在の事実です。たしかに聖女様が仰るように違った未来は当然あるでしょう。ですが、今はここにあります。生きている、子供の未来を見届けられる、この希望を与えて下さったのは聖女様、貴女なのですよ?」
「今が、事実……偶然でも関係ない?」
「下を向くことはありません。聖女様の行いはとても善い行いなのです。現実は良くも悪くも『今』なのですよ? 自信をお持ちになって下さいませ。……例えどんなに無謀な行動でも、こんなに綺麗な御心をお持ちの聖女様を悪く言う人が現れたら、きっと神様の天罰が下ってしまうでしょうね? フフ」
「家族を馬鹿にする奴は神様より先に私が蹴り飛ばしてやるわ!」
シスターさんはニコニコと僕を笑顔で褒めてくれているんだけど……僕的にはシスターさんの方が聖女様に向いていると思う。そもそも、僕聖女じゃないし。
というか、そっか。現実が全てなんだよね? 考えてたって仕方ない。結果が今なんだ。
「うん。僕、ここに来て良かった! シスターさんに会えて、助けれて良かったよ!」
今僕がいるこの世界が全てなんだ。悩んだり考えたりするより動かないと何も始まらないんだ。家に帰るのも、妹を救うのも何もかも僕が動かないと始まらない。僕が全て、僕が主人公なんだ!
なんだか無性に動きたくなってきた。動けば何かしらの結果を得られそうな気がするんだ。自然に口元がニヤけて走りたくなってくる。
「ねぇっ! レイモンドさんっ! 僕、何かしたいっ! 出来る事やりたいっ‼」
僕の暴走に2人は微笑み、ケイトちゃんは戸惑っていた。
「可愛い妹分だわ。ホンット癒されるわぁ」
「純真で童心を持っているからこその無垢なのかしら?ふふっ」
「せ、聖女様っ!? 跳んだら床が抜けちゃいますっ!!!」
僕が前を向くことで出来る事は無限に広がるんだっ! 未来は自分で作れるんだッ‼
この僕のテンションは床を踏み抜くまで絶調だった……




