第105話 変わった家族
「聖女様ぁーーーッ!? もう歩いて大丈夫なんですかッ?」
レイモンドさんと一緒に孤児院の近くまで歩いてきたら見知った女の子が叫びながら走って来た。昨日出会った女の子だ。流石に覚えてるよ。
「大丈夫だよ? それよりシスターさんは良くなった? 僕、魔力無くなっちゃったからさ、覚えてないんだ」
僕はまだシスターさんがどうなったのかを聞いていないんだ。……大丈夫だとは思ってるんだけどね? 少なくとも覚えてる限りは光の輝きを増していたし。ルナ先生も特に何も言わないから問題ないと思う。
「あっ、お母さんは元気だよっ! ありがとう聖女様っ‼」
そう言って女の子は僕に大げさなほどお辞儀をした。僕はありがとうって言葉だけで十分。役に立てた事が嬉しくて口元が緩んでしまう。
「私からもありがとう。ユウちゃんのおかげでこの孤児院は救われたわ。助けたのはお母さんだけじゃない、子供達も助かったのよ? 孤児院を、子供達を守っているのはお母さんだけだから」
レイモンドさんは僕の頭を撫でながら優しくそう言った。1人の病気を治した事がそこまでの事になるとは思ってもいなかった。僕はシスターさんだけじゃなくてこの子達? も救ったの?
「ぼ、僕は出来る事をやっただけ、ですから……えへへ」
みんなが僕を褒めるから照れてしまう。でも僕はやりたい事をやっただけ。出来る事をしただけなんだ。
「み、みんなが僕を守ってくれたり、信じてくれたから出来た事、です。僕だけの力じゃない、です」
素直な気持ちを伝えた。僕は1人で何でもかんでも出来る訳じゃないんだ。誰かに頼らないと何も出来ないダメな子だから。魔法だってそうだ。ルナ先生が教えてくれないと分からないんだ。……僕はそこまで褒められる様な事はしていないんだよ。
「ただ白くて、驕らない綺麗な心……小さな体でも大きな御心、まさしく貴女様は聖女の器。出会えた奇跡、神の配慮に感謝を……」
僕達の話を聞いていたらしい綺麗な女の人がゆっくりと歩いて来て、胸の前で十字を切り……僕の前で膝を着いた。あの? どちら様でしょうか?
「お、お母さんっ!? お家にいないとっ‼ まだ病み上がりでしょっ!?」
女の子が女の人にお母さんと言って心配そうにしている。お母さんって事はシスターさんって事だよね? ……え? ……若すぎない?
女の人は僕の目から見ても若く見える。改めて見るとまだ10代後半くらいじゃないのかな? 横になって苦しそうにしていた時はそこまで気にしていなかったけど、1人で孤児院を守るにしては若すぎる気がする。
「大丈夫よ、ケイト。あの光は全てを癒してくれたの。--小さな聖女様、私を、孤児院を救っていただきありがとうございました。出来れば何かおもてなしをしたいのですが……」
「え? あ、えっと……レイモンドさん?」
「ふふふっ、お母さんに任せましょう?」
レイモンドさんは僕の頭を撫でながらシスターさんに言った。そのシスターさんはレイモンドさんの顔を見て一瞬驚いた顔をしたんだけど--
「あら、おかえりなさい? レイン?」
「覚えててくれたんだね? ただいま、お母さん」
2人はやっぱり知り合いみたいだった。ところでレイモンドさんの方が年上に見えるんだけど? シスターさんよりレイモンドさんの方がお母さんじゃないの?
ここの家族は少し変わっているみたいだ、と僕は首を傾げた。




