第104話 鳥肌が止まらない
「ユウちゃん、孤児院に行ってみない?」
レイモンドさんは僕が落ち着いた様子を見てそう言った。というか、あれ? ここは孤児院じゃないの?
改めて部屋を観察すると、壁や天井には穴が開いていない。それどころか……変な置物がいっぱいあった。僕にはよく分かんないけど、なんで馬の置物とか置いてんだろ? そこそこ大きいけど座るトコないよ? 孤児院にこんな変なモノとかあるわけないよね?
「……ここって? 一体どこなんですか?」
僕の逆質問にレイモンドさんは目をパチクリさせていたけど優しい口調で答えてくれた。
どうやら昨日シスターさんに魔法を使って倒れた後、僕の意識が戻らない事に慌てたレイモンドさんは僕を担いでバタバタとお医者さんまで連れて行ったらしい。結果は分かってたけど魔力枯渇。つまりはMP切れだね。それでちゃんと看病出来て、何かあったら対応できるレイモンドさんのお店『エリザベート』へと帰って来たんだって。
うん、普通じゃないなぁって思ったよ。なんていうか、ココ……大人の雰囲気があるんだよね。壁に掛けてある『ムチ』とか……レイモンドさんに似合いそうだけどさぁ? 看病するって場所じゃないよね? いや、文句は言えないんだけどさぁ~?
「こんな部屋でごめんね? その、他に空いて無くて……」
「い、いえっ、看病してくれただけでも僕は嬉しいですからっ!」
なんだか申し訳なさそうに言うレイモンドさん。全然いいのに。それにしてもここがレイモンドさんの部屋かぁ―……思ったよりは変わってるんだね? でもいいんだ、綺麗なレイモンドさんがいつも寝ているベットだし--
「ユウちゃんは大丈夫なの? ここ、シシリーの部屋なんだけど……特殊過ぎて私はちょっと、ね……看病に適さないのは分かってたんだけど。本当にごめんね?」
「……わぁお。全身に鳥肌がっ!」
……ですよねー? レイモンドさんの部屋じゃないですよねー? そっかー、ここシシリーさんの部屋だったんだー。へー? ……立っとこ。なんかベットに触りたくない。
立ち上がった僕はなんとなくベットの匂いを嗅いでみた。
くんくん
……わぁお。枕がクッサい。シーツもなんかクッサい。
……僕、こんなトコで寝てたんだぁ?
「ユウちゃ--」
「治れッ! 治れッ!」
「……本当にごめんね」
僕は身体に付いた汚れを落とそうと必死に魔法を掛け続けた。こんなトコで寝たらアゴが割れて青くなってしまいそうだから。レイモンドさんは何も悪くないよ。ただ、こんなトコで寝るくらいなら地面に転がしてくれてた方が良かった。身体の拒絶反応が止まらないんだ。寒い、なんか寒いよ。
「レイモンドさん……ッ、鳥肌がっ、寒気が止まらないっ‼」
シシリーさんがいたら絶対に言えないんだけど--
僕、不潔な人は苦手なんだ。
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僕達2人は穢れたシシリー産の温室から脱出した。……部屋を出ただけなんだけどね?
なんでシシリー産の温室だと思ったんだって? だって体臭が……ね? 最後に枕カバーとかシーツを洗ったのっていつ? って話。僕って潔癖症なのかもしれない。僕の魔法で綺麗にならなかったら服を投げ捨てて水浴びしないと気持ち悪くなっちゃいそうだったんだ。
でも今は大丈夫。外に出たから!
「光・合・成ッ! 太陽万歳ッ‼」
僕は身体を目一杯広げて太陽に感謝した。あ~太陽の光ってなんて心地いいんだろう。嫌な気分も風に乗ってどこかへ行っちゃったみたいだ。
「元気そうで良かったわ? ……あとでシシリーには私から文句言っといてあげるからね?」
レイモンドさんは満面の笑顔で僕にそう言った。その笑顔、僕へ向けているのかシシリーさんに向けているのか分からないんですけど?
「え、えぇと、孤児院に行くんですよね? 場所は覚えてるんですか? 結構離れてましたけど?」
僕は孤児院までの道のりは覚えていない。だって一回行っただけの場所だからね。それにあそこは土地勘があってもなかなか見つけづらい場所だった。案内無くて行けるのかな?
「大丈夫よ? あそこは私の……育った家だから、ね?」
「レイモンドさんも、孤児だったって事なんですか?」
本当は薄々分かってたよ。シスターさんを見て涙を流していたし。……それにしてはシスターさん若いと思うんだけど? レイモンドさんと同じくらいにしか見えなかったけど?
「ふふっ、不思議そうな顔ね? 聞きたい事はなんとなくは分かるわ。でも答えは着いてからのお楽しみにしましょ?」
そう言ってレイモンドさんは僕の手を握って歩き出した。
その優しい手はやっぱり暖かくて、僕の心も温かくなったんだ。




