第102話 若いシスター
「ここが私達のお家ですっ! お母さん大丈夫か見てくるんでちょっとだけ待っててくださいっ!」
僕達は女の子に案内してもらって孤児院へと向かったんだ。孤児院は都の中と言っても、陸地側に位置した最奥地で、周りには人っ子一人として姿は無かった。僕はこんな所に本当に人が住んでるのか不安を感じながら着いてきたんだけど……着いて来た、んだけど……
「ここが……孤児院? 廃墟じゃなくて……?」
僕の目の前には教会っぽい形の崩れた建物があった。屋根の部分は崩れ落ちているし、壁の部分も大きな穴が開いていて中が少し見えている。本当にこんな所に住んでいるのかな? 僕はこれ程までの廃墟、見た事ないんだけど。
「変わっちゃった……なぁ」
周囲の観察をしていたら、隣にいたレイモンドさんの呟いた声が聞こえてきた。もしかしてレイモンドさんはここを知ってる? というか、孤児院に……いた?じゃぁ、 本当にここに人が住んでるって事?
「聖女様ぁーっ!あ、あのッ‼ お母さんの体調が悪くて、えっと、急いで着いて来てもらっていいですかッ!?」
レイモンドさんに孤児院の事を聞こうと思って横を向いたところで女の子が走って帰って来た。シスターさんはこの廃墟に居るみたい。信じられないけど居るって言うんだから居るんだよね? 廃墟にしか見えないけどここに住んでるんだよね?それより体調が悪くなったってもしかしてヤバい?
レイモンドさんに聞くのは後からでもいっか。今はシスターさんを治してあげた方がいいよね? そう考えて僕は聞く事を止めて急いで着いて行く事にした。もともと僕はその為にここに来た訳だしね。
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「お母さん、聖女様っ!聖女様だよっ!来てくれたんだよっ‼ お母さんを治しに来てくれたんだよッ‼」
女の子はボロボロな小さな部屋で、横になって激しく咳き込む若い人へと心配そうに抱き着き、泣いていた。お母さんと呼ばれた人はホントに凄く苦しそうで、身体を起こすことも出来ない様だった。
「ゴホッゴホッ、聖女、様? す、すいません、大したおもてなしも出来ずに……ゴホッ!」
それでも僕達へちゃんと挨拶しようと必死に震える身体に鞭を打ち、身体を起こそうとしている。その痛々しい姿を僕は見ていられなかった。
「だ、大丈夫ですからッ! そのまま寝てて下さいっ‼ すぐ治しますからッ‼」
僕は居ても立っても居られずに駆け寄り、魔法に集中した。
ルナ先生!? どれくらいなのッ!? この人治せるよねッ!?
〈……強い光……それで治せる……〉
強い光、か……多分僕はまた倒れるよね。でも死ぬわけじゃないし目の前の人が苦しんでるんだ。出来る事あるならやんなきゃ! 後悔はしたくない!
「レイモンドさ、ん? ……大丈夫だから。僕が絶対治してみせるからね?」
僕は倒れるであろう事を伝える為にレイモンドさんを見たんだけど……レイモンドさん、泣いてたんだ。とっても辛そうな表情で、まるでお母さんが本当に死んでしまうかの様に。きっとこの人はレイモンドさんにとっても大事な人なんだ。大丈夫だよ、僕が絶対に治すから。
「その、えっと、多分僕は倒れるけど心配しないでね?」
「ユ、ユウちゃん?」
「治れッ!」
みんなのお母さんの光は小さかった。もしかしたら数日で消えていたかもしれない程に。でも僕の魔法で輝きを増していき、綺麗な黄色の煌めきを発してきた。この光はとても温かく、どこか僕に懐かしさを思い出させてくれた。
元気、出してね……お母、さん……
そして、そのまま僕は意識を失った。




