第99話 聖女なんて大層な存在じゃないってば
大柄男の人を倒したレイモンドさんは、身なりを整え傷だらけの女の子の方へと歩き出した。
(あ、そういえば傷だらけだったよね?治してあげないと。)
女の子を見て、僕がそう思っている間にレイモンドさんは質問を始めていた。出来る大人は行動が早いみたい。というか普通に足が速い。
「ねぇ?お嬢さん?ここで何をしていたの?」
この事件の真相を知っていそうな人物に聞くのは間違っていないと思う。でも、僕は早く治してあげたかった。傷だらけだし、今もずっと泣いているからさ?
「レ、レイモンドさん?ちょっとだけ待ってもらえないかな?」
「え?……あぁ、そうね?ごめんなさい。ユウちゃん」
レイモンドさんは僕の言いたい事に気付いたらしい。1歩横にズレて僕に「よろしくね?」と微笑んでくれた。
僕はその言葉に頷いて、女の子に声を掛けた。
「すぐ終わらせるからね?」
僕の言葉に女の子は何を勘違いしたのか「殺さないでぇ」とさらに泣き出してしまった。何でそう思ったのか分からないけど、今は何を言ってもダメそうだと思って僕は魔法の準備をしていく。
(ルナ先生?中くらいでいいかな?)
〈……小さくていいよ?……見た目ほど酷くはないから……〉
ルナ先生の助言を聞いて僕は女の子へと魔法を掛けた。ルナ先生の言葉はいつも間違いがないからね。
「安心してね?傷を治すだけだから。……治れッ」
僕は目を閉じたまま光の状態を確認し、魔法に集中した。
「ぅわあぁぁぁん……ズズッ、あ、あれ?……痛くない?グスッ、温かい……?ふぇえッ!?傷が……?」
女の子の心が大分落ち着いた様子を感じたけど、僕が見える光はまだ輝ききっていない。まだ終わっていないんだ、集中しないと。
僕の魔法を見ているからかレイモンドさんの声も聞こえてきた。
「人を救う『力』、か……綺麗な光ね」
僕は目を閉じてるからどうなってるのか全然分からない。でも綺麗な光っていうのは分かる。やってる僕でも感じるんだ。温かさが。光のきらめきが。
考えているうちに光は一段と強い光を発し、消えて行った。きっともう大丈夫。女の子の傷が元に戻った事は感覚でなんとなく分かるんだ。もう慣れたからね。
僕は瞼を開いて様子を確認した。
(うん、大丈夫そうだね?涙も止まったみたいだし。それにしてもなんでそんなに驚いた顔してるの?……あぁ、そっか、珍しい魔法だもんね?僕でも初めて見たらこんな顔したかもしれないや。まだ僕自身見た事ないけど。)
そう思いながら小首を傾げていると、レイモンドさんが呆れたような顔をして僕に声を掛けてきた。
「ユウちゃん?この子は当然の反応をしているだけよ?ユウちゃんの魔法は奇跡そのものですもの」
「奇跡……ですか?たしかに凄いとは思いますけど僕はこの魔法しか使えませんよ?」
(この世界では今、第7魔法を使える人はいないらしいからね。奇跡っちゃあ奇跡だよね?だけど僕は他の魔法は全然反応無かったんだよねぇ。スキルは増えたけど魔法は増え無さそうなんだよ。……ファンタジー世界で大魔法使いになるという僕の夢は叶わないんだ。チクショウめ。)
自身の魔法センスを皮肉っていたら、女の子から聞き慣れた言葉を言われた。
「あ、あの、私と同じくらいだと思うんだけど……アナタは、その、『聖女様』なのでしょうか?」
(この世界に来てからやけに言われるんだけど?僕はそんな大層な存在じゃないって言ってんのに。困っていたら助けるって常識でしょ?たまたま僕が『回復魔法』を使えるってだけで、『聖女』なんておかしいでしょ?)
「あのさ、僕は」
「白く可愛い聖女よ」
「白い本物の聖女様よぅ?」
「白の小さな聖女様ね」
「白き伝説の聖女様です」
み、みんな、僕に恨みでもあるんですか?
「白の……聖女様……傷を、癒して……あ、あのッ!聖女様ッ!?お、お願いがあるんですッ‼聞いていただけないでしょうかッ!?」
(また1人聖女認定しちゃったよ。違う……ってもういいか。どうせ聞いてくれないし。ところでお願いってなんだろ?)
「お願いって」
「その前に大事な事聞きたいんだけど?……お嬢さんのやってた事とか」
レイモンドさんの言葉に僕はやるべき事を思い出した。話が逸れてすっかり忘れていたよ。事件の解決が大事なんだった。苦しむ人を無くす為に。
それから女の子は語りだした。この事件の知り得る全ての事を……
仕事が多忙で時間が取れない為、今月は更新が遅くなってしまいそうです。
出来る範囲でなるべく更新していこうと思いますが、急ぎ過ぎて内容がおかしかったらごめんなさい。




