その8
一方、ミア達は王都アルバルスから抜けるために馬を走らせていた。
「ううっ。お父さん。お母さん。」
「いつまで泣いてんだよ‼︎ 一刻も早くここから逃げるんだよ‼︎ 俺だって故郷から離れたくねぇよ。」
メルスは涙を堪えていた。彼もアルバルス出身の人間で17年間過ごしてきたからだ。
「とにかく今は忘れろ!逃げることを考えろ!」
「……わかったわ。父と母のためにも生き残らなくちゃダメよね。この国の民のためにも。」
ミアは涙を流しながらも決心した。国のために自分のため、家族のため、生き残らなければならないこと。
「そういえば…メルス。」
「なんだよ。こんな時に。しっかり掴まってろ。落ちるぞ。」
「あなたのお父さん、お母さんは助けなくていいの?どこかにいるでしょ?」
「俺の親父と母ちゃんは死んでいねぇ。大丈夫だ。心配するな。」
メルスは少し暗い顔をして返事をした。
「いたぞー‼︎ あのガキどもだ‼︎ 捕らえよ‼︎」
暗黒教の信者達が追ってきた。
「クソっ!まずい!見つかった!急いでアルバルスから抜け出さねぇと!ミア‼︎ しっかり掴まってろよ!飛ばすからな!」
メルスは馬のスピードを上げた。どうやら馬を操るのがうまい才能があったみたいである。
「メルス!このままじゃ追いつかれるよ!」
「わかってる!今から細道を走るぞ!なんとか振り切ってやる!」
「わかった!あなたを信じるわ!」
ミアはうまく掴まりながら剣を出した。
「何をする気だよ!危ねぇぞ!」
「ふっふ〜ん。私に考えがあるのよ。あいつらの進路を塞いでやるわ。」
ミアは何かを思い付いたようだ。
「逃げるのが上手いガキどもだな!だか俺たちの乗っている暗黒狼はお前らの馬より早いんだぜ!追いつくのも時間の問題だぜ。アヒャヒャヒャヒャ‼︎」
暗黒教の信者達は大笑いした。実際暗黒狼は馬より早く獲物を捕らえるのに適した魔物だ。
「よし!あの山積みになってる箱を崩すわよ!メルスしっかり馬を操ってね!よろしく頼むわよ!」
「おう!任せとけ!そのままぶち壊してやれー!」
「うおおりゃあああ‼︎」
どんどん箱積みの山が崩れていく。しかも箱の中にはトマトやいろんな果物が入っていた。
「うわぁぁぁ‼︎ 落ちる!」
暗黒教の信者達は次々と体制を崩し落ちていった。まさに修羅場であった。
「クソっ!あの野郎ども!舐めやがってー!」
どうやらミア達はうまく逃げ切れたようだ。
「ミアやったぞー!ってかお前すげぇな!お前がいなかったら追いつかれていたぜ。」
「あなたも馬を操るのが上手かったわよ!私達以外にコンビ合うじゃない‼︎」
二人はお互い褒め称えた。
「もうすぐアルバルスの正門だ。」
ミア達は王都アルバルスの出入りである正門へと向かっていた。しかし…暗黒教の手配は早い。既に正門は信者達が待ち構えていた。
「クソっ!敵だらけじゃねぇか!どうする!突っ込んでいくか? それとも…」
「さっきとおんなじように私が奴らの攻撃からなんとか守るわ。勢いよく突っ込んでいって!」
「おいおい!こりゃいちかばちかだな。ミアさっきと同じように頼んだぞ!」
生か死か。敵の数は多い。二人でこの数を相手するのは無理がある。しかし今の二人にはこの正門を突破する自信があった。
「おい!あいつらだ!逃さずに捕らえろー!」
暗黒教はミア達が真っ直ぐ突っ込んできてるのに気付いた。
「ふん。馬鹿な奴らだ。この人数に突っ込んでとは大した度胸だな。残念ながらお前達の逃亡冒険とやらはここで終わりだ。はっはっはっはー‼︎」
信者たちは大笑いしてた。当然だ。この数を相手にうまく逃げ切って正門から出ようって考えがないからだ。
「ミア!お前の腕前見せてやれ!」
「うん!いくわよー!ファイヤーマグネス!」
ミアはマナを消費した。
「なっ!ぐあああああっ!熱ちぃ!熱ちぃ!燃えるー!」
ファイヤーマグネスは相手を焼き払う剣魔法だ。そこまでマナも消費せず、使いやすい。
「あのガキ剣魔法が使えたのか‼︎ くううっ‼︎」
「うおおお!あとちょっとだ!ミア頑張れ!」
「ファイヤーマグネス! ファイヤーマグネス!」
二人はそのままうまく敵の攻撃から逃げ切りそのまま正門から抜けた。
「奴らめ!今度こそは捕まえてやる!」
「今度はない。お前達はここでみんな処分だ。」
「フ…フランシス様‼︎ 」
フランシスが正門に来たようだ。彼の顔はとても怒りに満ちていた。信者達は逃がしてしまったことで彼の逆鱗に触れてしまったようだ。
「ああ? 言いたいことでもあるのか?言ってみろ。」
「も…申し訳ございません!ど…どうか…お許しを‼︎ 」
「次こそは絶対に捕まえて見せます!フランシス様‼︎ 今回はお許しください‼︎」
信者たちは必死に謝っていた。しかし彼の怒りは想像を超えるものだった。
「私の命令を成功出来なかった。お前達に生きる価値などない。」
フランシスは剣を抜いた。
「う…うわぁー‼︎ 申し訳ございませーん!」
一人の信者が逃げた。しかし彼からは逃げれない。
「私に逆らったな。全員まとめて死ねぇぇ‼︎‼︎ 黒龍斬り‼︎」
黒い煙が周りを覆い尽くした。何も見えない。ただ恐怖がそこにあるだけだった。
「う…うわぁぉぁ!」
次々と信者が殺されていった。
「フランシス様 容疑ないですね。」
「当然だ。チャンスは一度しか与えない。お前達もいつかこうならないようにな。」
「ひっ‼︎」
あたりが凍りついた。
一方……
ミア達はチェリーランド公国に向かっていた。
「ミアさっきは凄かったな。さすが第一王女様だな‼︎ まぁあとはこいつも頑張ってくれた。俺たちが逃げれたのはお前のおかげだよ。」
メルスは馬に感謝した。
「ヒイィん‼︎」
馬も嬉しそうだった。
「わりぃなミア。俺全然戦えねぇからさ。」
「大丈夫よ。あなたの馬の操り方立派だったわ。それにチェリーランド公国で剣術学べばいいじゃない。私もまだまだ弱いから特訓しなくっちゃね‼︎」
二人は笑い合いながら夕日の中を走っていった。