訪問販売(ダーク)
契約内容はしっかりと確認しましょう
「臭いにお困りの貴方に、とてもいい商品がございます。まずはこちら……なんですけれどね、これは小型で、非常に手にフィットしますので力のない女性でも簡単に扱うことができます。ただ、効果も少々小型化されてしまいまして……はい、効果は高いほうがよろしいですか、わかりました、それならばこちら、女性の方ですと片手用のほうがいいかもしれませんね。片手用ではありますが、もちろん両手でしっかりと握って使って頂いてもよろしいですし、使い方によっては最大限に効果を発揮できるものです。付属品も付きますと少々お値段は高くなりますが、多用される場合でなければ非常にリーズナブルなお値段になっていると思いますよ。……はい! ありがとうございます、それではこちらの契約書にお名前、住所、それと判子かサインをお願いします、はい、……はい、カードで、はい! お買い上げありがとうございます、またのご利用をお待ちしております……」
――買った、買ってしまった。本当にこれで臭いがとれるのだろうか。
お風呂に入ってもとれない、いつでもどこでも宣伝しているあのシュッでもとれない、はたまたあっちのシュッでもとれないこの臭いを。
香水やお香、匂い袋でごまかそうとしても、必ず臭ってくるこの臭いを。
これならばとることができるのだろうか、ううん、試してみないことにはわからない。
片手用のそれを、両手でしっかりと握る。
そうして照準を合わせて、『ひきがね』をぐっと人差し指で押した。
破裂音、うめき声。
効果として表れる、二つのことは起きた。
……ああ、やっぱりインチキだったんだ。
だって、この臭いが消えないんだもの。
アイツが目の前で、こんなにもうめき、苦しんで、のた打ち回っているのに、消えないんだもの。
ああ、お父様の息は絶えたというのに、どうしてお前は息絶えてくれないの?
わたしを取り巻く、醜悪な憎しみの臭いは消えない。
いくら躯を擦っても、いくら躯を濡らしても、腐った卵のような憎しみの臭いが消えないの。
わたし、騙されたのかしら、あの訪問販売の男に。
そう、あの男もわたしを騙したのね、お父様のように、……そう。
憎い、憎い、憎い憎い、憎い憎い憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
……あら?
驚いた、憎しみの臭いが気にならなくなった。
あの男の言ったことは嘘ではなかった! わたしは救われたのだ! 嬉しい! なんと嬉しい!
ああ、これで匂いを楽しむことができる! そう、まずはつんと鼻を刺す、この鉄の匂い!
なんていい匂いなのだろう、ああ! 幸せ! なんて幸せ! 今ならわたし死んでもいい!
ああ! 丁度いいものがあるじゃないか!
今なら片手で操れる気持ち! なんて軽いんだろう!
ハレルヤ! ハレルヤ!
ハレルヤ!
カナブンは自分の臭いで気を失います