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あめの日(ほのぼの)

 先生あのね、家に帰るまでが学校です。


「あめ、ふらないかなあ」



 長ぐつをはいて、黄色いかさを広げているこいつ。

 かさというものは、ほんらい雨をはじくためにつかうもののはずなのだけど、こいつは何を思ったのかそれをさかさまにして、雨をうけとめるかたちにしている。

 いわゆる、うけ皿のようなつかいかたをしているのだ。


 ぼくはあきれたようにため息をついた。

 ぼくも長ぐつをはいているけれど、こいつのように黄色のかさを広げたりはしない。

 まだ雨もふってきていないからだ。

 きちんとほそくまいたまま、手にもっている。


 空はどんよりとくもっていて、今にも雨がふりそうだが、ぼくはいえにつくまでもつとよそうしている。

 しかしこいつは、雨がふらないか、ふらないかと心まちにしている。

 さっきからかさを広げたまま、どんよりとしたまっくらな空を見上げて、いまかいまかとまちのぞんでいるのだ。

 口を大きく広げたままの、そのあほづらは見ていてふゆかいだ。

 でもけっして、きらいじゃない。だてに友だちをやっているわけではないのだ。


 だてに友だちをやっていないぼくはわかる。

 今、こいつのあたまの中では、すでに雨がふっていることが。

 それもふつうの雨じゃない、『あめ』がふっているのだ。




「なあなあ! あめがふってきたらさ、ちゃんとよごれないようにつつみがみにつつまれてるかな! それともまるはだかかな! でもさ、まるはだかだと、下におっこちたらきたないよなー! あ! あらえばへーきか!」




 ほら、当たった。

 くるくるとはしゃぎながらスキップするこいつは、ばかだから仕方ないのだ。

 雨をあめだと思っている。ああ、ぼくはまだ『あめ』というかん字がかけないのだ。

 これではぼくは、こいつをばかだと言えないではないか、がんばろう。

 とりあえずぼくは、くるくるとはしゃいで車どうにはみでそうなこいつのうでをひっぱった。




「あのさ、ふってくる雨って、あまくないぞ」

「え! そーなの? なんだよそれー! つまんねー!」

「ていうか、ふってくる雨と食べるあめってちがうし」

「えー? だってあめって言うじゃん!」

「そういうのって、どうおんいぎごって言うんだよ、高学年になったらわかるよ」

「ふーん、そうなんだ」



 せつな、ぽたり、とぼくのほっぺたにつめたい水が当たった。

 するとこいつのおでこにも、同じような水てきが、ぽたり、ぽたり。



「雨だ」

「えっ? あめじゃないぞ?」

「これは、ふってくる雨だよ、ほら、食べるあめとちがうだろ?」

「ほんとーだ! すげー! おまえものしりだなー!」

「ありがとう、ていうかはやく帰ろう、ほら、かさを上にむけなよ」



 ぼくはながれるようなどうさでかさをひらく。

 ばかを見ると、かさをまえに出しすぎている、まったくせわがやけるやつなんだから。



「ほら、もっとかさをうしろにしなきゃ、ランドセルがぬれるだろ」

「わっほんとだ! さんきゅー!」


 いな、小学生なら、あたりまえのことだったかもしれない。

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