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衛兵と囚人(ダーク)

 牢の格子窓から


 衛兵は気になっていた、自分が番をしているこの牢。その中に投獄され、監視されている囚人のことが、気になっていた。

 顔は知らない、牢の扉にはほんの小さな長方形の格子窓しかないからだ。

 その格子窓から見える世界は、二つの目だけ。

 性別も知らない、そもそも衛兵は囚人の罪状すら知らないのだ。

 けれど衛兵には、この囚人が実は無実なのかもしれない、冤罪なのかもしれないといった考えはまったく浮かんでこない。

 衛兵が衛兵という仕事を続けていられるのは国王のおかげ。仕事があり、稼ぎがあるのは国王のおかげ。

 その国王が下した裁きなのだ、きっと大罪を犯したのに違いない。

 衛兵は刷り込まれた情報から、それを自らの意思として今日も牢の扉の前に立つのだった。



 ある丸い月の夜だった。


 いわば満月に近い夜。衛兵は視線を感じた。後ろから背中を刺すような視線を。

 否、背中よりもっと上を刺している。心の臓。否。肩甲骨。否。肩。否。

 後頭部。後頭部である。衛兵は後頭部をジリジリと焼かれているような感覚を覚えた。

 まるで、レンズを使って太陽の光を一点に集中させるように、その一点がジリジリと燃え上がるのだ。


 ――否、否、俺を見ているのではない、月だ、月を見ているのだ。


 衛兵は自分に言い聞かせ、汗で滑る槍の柄を握りなおした。



 ――満月は特に人を狂わせると言う、きっとこの囚人も月に狂わされているのだ。


 衛兵はそうも自分に言い聞かせた。

 囚人は月を見ている、月が欠けてゆけばもう見ることはない、と。

 しかし囚人は次の日も、その次の日も、そのまた次の日も同じように衛兵の後頭部を刺し続けた。


 そして月が二度目の満月を迎える。




 ――見ている! 見ている! 俺を見ているのだ! 刺すような視線で! いや! 視線で刺しているのだ! 俺を!



 衛兵の激しい息遣いが石壁に反射して響き渡る。

 汗で滑る槍の柄を握り直すが、また直ぐに衛兵の手の中で滑り出す。

 ついには、槍は衛兵の手を滑り、石畳へと吸い込まれていく。



 ――見ている見ている見ている見ている俺を俺を俺を俺を俺を俺を!



 金属が石畳を打ち付ける激しい音が石壁に反射する。



「あ、あ、あああああああああああああああああああ!」




 格子窓から覗く二つの月が、三日月に歪んだ。



 実は月に狂わされたのは

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