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ほんとはどれぐらい生きるか知らない(ほのぼの)

アロングロングタイムアゴー


 昔昔、そのまた昔から、亀は万年生きると申しますが、人間様はそんなに長く生きられませぬ。

 わたくしたち亀を扶養して下さる人間様は、いつしかお姿を消されてしまいます。

 さすればわたくしたちはあと九千と九百と十と四年どう生きましょう。


 そう、消えてしまった貴方様を探しに『生きましょう』。

 なに、歩みののろいわたくしのことです。

 貴方様を見つけ出すのに九千年はかかりましょう。

 貴方様に再び見つけ出して頂くのに九百年はかかりましょう。

 さすればあと十と四年、貴方様のお傍でわたくしは万年生き切ることが叶います。



 しかしわたくしの考えは、わたくしの歩み同様のろかったようです。

 九千と九百年貴方様を探し求めても探し出すことが叶わぬのです。

 十年涙を流しても貴方様のもとへ辿り着くことが叶わぬのです。


 水の底から外を見つめながら、わたくしは老いた頭で考えます。

 なんということでしょう、歩みののろいわたくしは、考え、貴方様を探し求めるためその歩みを進めるまでに実に四年、考え込んでいたというのです。

 ああ、わたくしはもう間もなく、万年を生き切ってしまいます。

 わたくしは諦め、両の瞼を下ろしました。

 いいえ、わたくしはどこか期待をしていました、万年を生き切ってしまえば貴方様に会えるのではないかという、愚かな期待でございます。




 それは愚かなわたくしに対する仏の叱責でございましょうか、あるいは諦めの境地に至ったわたくしに対する仏の激励でございましょうか。

 再び瞼を開けたわたくしの眼に映りましたのは、黒白がはっきりとつけられました身体にわずかにともる赤が美しい。

 鶴でございました。


 昔昔、そのまた昔から、鶴は千年生きると申します。

 さすればわたくしは、もしやすると、もう千年生きることを課されたのでございます。

 あと千年、あと千年でわたくしは、無事貴方様のもとへ辿り着いてみせましょう。

 水中移動ならば、自信がございます。





「……お、おれっ……! その亀飼います! おれ責任持って飼います先輩!」

「おーそうか、飼ってくれるか」

「ちょっお前何してんの! 純粋な後輩をだますな!」

「だますだなんて人聞きが悪い! もっとオブラートに包んで言え!」

「それだましたってこと否定してねぇよな!?」

「やべっ口が滑った、ち、ちっげーよ! 俺は昨日縁日でとった亀の気持ちを代弁しただけだ! 決して飼う気もないのにとっちまって面倒だから後輩に押しつけようだなんて考えてねーよ!」

「お前って本当バカだよな! バーカバーカ!」

「バカって言うなバカ! バカって言うほうがバカなんだぞバーカ!」

「ってかお前会社でそのバカげたアフレコすんなっつっただろ! バカだから恥ずかしいから!」


「ねーねー、俺いいペットショップ知ってるから紹介したげるよ」

「ほ、ほんとですか! ありがとうございます!」

「うん、うちのユリコ御用達、ついでに晩御飯一緒に食べよーね」

「はい!」



――会社員トリオ、昼休みの食堂にて純粋な後輩を囲みながら

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