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こんな映画かドラマある(恋愛)

映画のようにフェードアウトは許されないけれど


「とちるなよ軍曹」

「伍長こそ、……俺、伍長のこと信じてるから」

「ああ、俺も軍曹のことを信じてる、この世の誰よりも……、行け! 軍曹!」

「おう!」




 軍曹が、教会のドアを勢いよく開け放った。



 出席者の誰もが驚いて立ち上がり、入り口へ視線が釘付けになる。

 赤や黄緑、淡い紫や空の色、派手な衣装が並ぶ中、軍曹の視線の先には純白のドレスに身を包んだ女性がいた。

 軍曹の目には隣に立つ、花嫁と揃いの純白のスーツを着た男なんて映っていないことだろう。

 かくいう俺にもそんな男の姿なんて見ていない。



 ただ、この場にいる美しい、上流階級の貴婦人方の誰よりも、ずばぬけて美しく。

 この場にいる上流階級のちょっとやそっとのことで人一倍驚いちゃうぜ的な紳士淑女の誰よりも、人二倍驚いている。


 そんな、かぐや姫の花嫁姿しか見ていないのだ。



 ただし俺たちは祝福しに来たのではない。

 邪魔をしに来た。




「かぐや姫!」

「……!」



 軍曹が教会の中心で叫んだ。

 俺は軍曹の邪魔にならないよう、軍曹を取り押さえようとしているちょっとたくましめの男たちを殴り飛ばしておく。

 伊達に中学校悪いことをやって全寮制の男子校に押し込められたわけじゃないんだぜ!

 上流階級の方々は、やはり自分で取り押さえる勇気もないらしく顔面を蒼白にして事を見ていることしかできない。

 そうだ、そうやって大人しくしていればいい。



「な、何だお前は! 出て行け!」



 ただし、かぐや姫の婚約者だけは違ったらしい。チッ、半端に抵抗しやがって。

 必死に視線に入れまいとしていた野郎が、図々しくもかぐや姫を庇う形で一歩前に出る。

 きちんとかぐや姫を庇うあたり、こいつもかぐや姫のことを大事に想っているのかもしれない。

 だがしかし、問題はかぐや姫の気持ちだ。

 軍曹、言ってやれ、言ってやるんだ、お前は月になれるのだから。




「俺は! いつも寂しそーな目をしているあなたを! いつか笑顔になって欲しいと願っていた! できれば! 俺が! あなたを! 容姿とかじゃなく! 俺は! あなたを! せ か い で い ち ば ん 愛 し て ま すううううっ!!!」



 月からの使いはとても強い。

 帝が千の兵を用意しても、その全てを薙ぎ払い、かぐや姫を連れ帰った。

 かぐや姫は涙を流しながらも、最後は、自分の意思で月へ帰るのだ。



 だから今この場で、涙を流しながら軍曹に歩み寄り、その手を取ったかぐや姫を、誰にも止めることなどできるはずがない。


 軍曹はかぐや姫と手を取り合った瞬間、弾けるように走り出した。打ち合わせ通りだ。

 しぶといマッチョめのお兄さんが倒れ伏しながらもかぐや姫の純白のドレスの裾に手を伸ばし引きとめようとする。

 だがしかし、この俺がそんなことは許さない。俺は諦めの悪いマッチョめのお兄さんの背中をドスンと踏みつけた。

 かぐや姫の純白のドレスが、マッチョめのお兄さんの指をすり抜けて悪戯に踊る。



 さて、俺の仕事は最後の一つを残して終わった。

 シメの仕事をこなそうじゃないか。大きく息を吸って。




「すいませんでしたああああああああああああああああっ!!!!!」




 全力で、土下座を。


すれ違ったかぐや姫は、笑っていたよ。

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