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人は誰でも殺人犯なのです、よ(ダーク)

ある人はそれをヤンデレと呼びます


 若い精神科医は恐怖した。




「あのね! うふっ! あ、ううん! 思い出し笑いよ! うふふ! 今日はすっごく嫌な一日だったの! 皆わたしのことあんなに大好きだったのに、なんだか皆がわたしのこと嫌いになっちゃったみたいなの! わたしすっごく悲しいわ! だってわたしは皆のことだぁいすきなんだもの!」



 高校のブレザーに身を包み、背もたれのない丸い回転椅子に座る少女。

 チェック柄のスカートは規定よりも短くなるような工夫が施されているようで、真っ白な太ももを覗かせている。

 白いワイシャツに映える真っ赤なリボンは、彼女の年相応に膨らんだ胸元に華を添えて、少女が興奮気味に話すからか飛び跳ねて存在をアピールした。


 あるいはリボンが飛び跳ねたのは、少女の胸に抱かれたハサミを恐れたからだったかもしれない。

 あるいは少女の前髪が目にかからないようにピンで留められているのは、髪が少女の目に宿る狂気から逃れたかったからかもしれない。



 ――この少女は、狂っている


 若い精神科医はこうして恐怖したのだ。

 しかし彼は精神科医であり、この場所は精神科の診察室である。

 この場所に訪れるのは、少しばかり自分を見失った人や、彼女のように完全に自分を見失い、虚構の自分を作り上げさらにはそれこそが自分なのだと思い込んでしまった人だ。

 それらは全て『患者』と呼ばれる。

 患者を診察することこそが若い精神科医の仕事だ。患者に恐怖することは仕事ではない。


 彼とて若いとはいえきちんと学問を修めた精神科医である。若い精神科医は彼女に問う。



「皆は、本当に君のこと嫌いになっちゃったんですか? それは本人から聞きましたか?」


 すると彼女はやはり「うふふ!」と笑ってから、嬉しそうに返事を返してくれた。



「ううん、本人から聞いたわけじゃないけど、皆前みたいにわたしに接してくれなくなったの!」

「前みたいに?」

「そうよ! 前はね! うふふ! やだ、また思い出し笑い! うふふっ! 前はね、みぃんな、わたしのこと蹴って、殴って、とってもとってもわたしのこと好きだったのに、今は何もしてくれないのよ! 皆はわたしのことが怖いって言うけど、きっと嘘、わたしのことなんて嫌いになっちゃったんだわ! わたしはこんなに皆のことが好きなのに! あ! どれくらい好きかっていうとね、そうだなあ、うふふ! 皆がわたしにしてくれたように、お腹の一番柔らかいところをローファーで思い切り踏みつけてあげたいくらい大好き! ……ううん、そんなんじゃたりない、わたしは皆のこともっともっと好きなの! 二の腕の一番柔らかいところを切り裂いて、中の真っ赤な肉と真っ白な骨のコントラストの美しさを二時間語り明かしてあげたいほどだぁいすきよ! うふふっ! うふふっ!」

「……そう、君は皆がだぁいすきなんですね」



 若い精神科医は――彼が信じる限り彼の精神は通常であるが――通常の精神で思う。


 ――そうか、彼女は、そうやって殺されたのか



 『彼女』は殺されていた、彼女の大好きな『皆』に殺されていたのだ。

 彼女の肉体はまだ機能している。呼吸をし、心臓を動かし、脳が命令を発している。

 ただしそこに殺された『彼女』は居ない。死んだのだ。無残にも『皆』に殺されて死んだ。



 彼女は笑った。




「だぁいすきよ! うふふっ!」



 その笑顔を見ながら、若い精神科医は思う。


 ――明日、彼女の学校へ行こう、そして話そう



 貴方の学校には、殺人犯が213人居ると

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