ある勇者の話(ダーク)
ゆうしゃ は あいがんどうぶつ を てにいれた !
――俺は勇者です。魔王を倒し、人々から褒められ讃えられ崇められる、勇者なのです。
しかし今俺は非常に、こんわく、しております。
いないのです、彼が。否、彼女だったでしょうか。否、彼に決まっています。
魔王が、いないのです。どうしたことでしょう。
間違えました、俺は間違えたのです。魔王が目覚めるのはもう百年後でした。
なぜ俺は魔王の目覚める百年も前に生まれてしまったのでしょう。
それは罪です、生まれながらにして俺は罪深いのです、間違えてしまった。
ああ、この罪を消すには、償うにはどうしたらいいのでしょう。
俺も眠るべきでしょうか、否、寝過ごしてしまいます、俺はまた罪深い生を受けることになります。
魔王を起こしましょうか、否、もう二百年も寝ている奴です、手ごわいでしょう。
焦ります、俺は焦ります。
人々は平和です、盗みを働くものさえいません。
どうしましょう、こんわく、です、これはこんわくです。
気が付きました、魔王に生まれてもらいましょう。
その辺で捕まえてきたドラゴンの赤ん坊です、たしかこのドラゴンは凶暴でした。
たしかこのドラゴンはかつて魔王のあいがんどうぶつでした。
餌を与えます、小鳥です。巣からとってきた小鳥です。
バリという音がします、骨を噛み砕いたのでしょう。小鳥はまだ息があります。苦しそうです。
ドラゴンが小鳥の御尻を噛み千切りました。小鳥が甲高い悲鳴をあげます。
小鳥はまだ息があります。死にません。可愛そうに、いっそ死んだほうが楽でしょう。
しかし今俺が小鳥に手を出すとドラゴンが怒ります。火を噴きます。俺、火傷します。
ああ、ついに小鳥は生きたままドラゴンにえんげされました。
ドラゴンは小鳥を実に十六匹食べました、食べ盛りというものです。
あれ、あれれ、どうしましょう、予想外です。ドラゴンが愛しいです。殺せません。
ドラゴンを魔王に仕立て上げ、俺が引導を渡してあげようと、そういう計画だったのに。
ビー玉のような瞳で見られると、俺は殺せません。愛しいです。すこぶる愛しいです。
ドラゴンが擦り寄ってきます。愛しいです。
まさか、まさかそんな、なんでことでしょう。
女の子です、ドラゴンはメスだったのです。彼女が俺の頬に自らの頭を摺り寄せます。
うろこでしょうか、ザラザラして痛いです。でも愛しいです。
彼女と目があいます。彼女の瞳に俺が写ります。
愛しい彼女に、俺はキスをしました。
ぼうけん を きろく しています ・・・