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うまくヴィジョンを結ばなかった

 連続殺人事件第四の被害者はロボットだった、というのはひどく警察を困惑させたようだった。

 エヴァの外見も、あるいは周囲の人間と築いてきた人間関係も完全に人間と遜色ない……というか、人間そのものであったために、初動捜査は殺人事件としてスタートしたが、解剖の結果彼女の遺体が機械であることが鑑識によって証明されると、罪状は器物損壊へとシフトした。

 それでも、一連の殺人事件と連なる事件であることは疑う余地がない。通常の器物損壊事件よりも大規模な捜査本部が敷かれ、捜査が開始された。

 もっとも、これは後になってりんねから聞いた話だ。

 僕に対しても、何度も事情聴取を繰り返されたのだはずだが、いくらも記憶に残っていない。きっと警察を困らせてしまっただろうし、悪いことをしたとも思っている。

 だが、警察に対して充分な対応をするだけの余力は、僕には残されていなかった。

 混迷を極める警察とは対称的に、マスコミの報道はある意味で割り切っていた。

 漫画家・大豆生田御門、資産家の娘・伊東七夕、公安警察・冷泉ルナに続く第四の被害者はロボットだった!

 こんな格好の話題に食いつかないマスコミなどいるはずがない。

 生前のエヴァの様子を巡って、僕たちの通う高校にも随分マスコミが押し掛けたし、エヴァの美貌は写真にとっていた生徒も多かったので、それによって小銭を稼いだものもいたそうだ。

「まあ、ゆっくり休むことだよ、勇人」

 自宅のリビングで、りんねは両手でココアのマグカップを抱えて言った。

「本当に大丈夫? 勇人」

 僕は無言でりんねに視線を向けて、黙って下げた。

 口を開く気力もなかった。

「ねえ、勇人。なんか言ってよ」

「……」

「なんか食べる?」

「食欲ないんだ」

「わかった。作るね」

 僕の言葉を無視してりんねは立ち上がり、僕はそのまま身体を横に倒してソファに埋もれた。

 僕は、どうすれば良かったのだろうか。

 どうすれば、エヴァを失わずに済んだのだろうか。

 何度シミュレートしても、うまくいかなかった。

 一体犯人はどんな人物だったのだろうか。冷泉ルナもエヴァもいない今となっては知るよしもない。警察が犯人を逮捕したとしても、本当のところは謎のまま終わるのかもしれない。

 冷泉ルナやエヴァを易々と殺害してみせた事実からは、よほど手練の殺人鬼が想起される。マスコミの間では、警察内部の犯行説、複数犯説など、どこまで本気なのかわからない説が跋扈していた。

 僕も色々なパターンを考えたが、どんな人物ならばエヴァを殺害せしめることができたのか、うまくヴィジョンを結ばなかった。

「ねえ、ちょっと。勇人。冷蔵庫に全然食べられるものないんだけど」

 りんねはぶつぶつ言いながら、家を出て行く気配があった。きっと、自宅から何か食べ物をとってくるのかもしれない。

 エヴァの死亡に考えを戻す。エヴァが死んだという事実は、既にアメリカにいる父の耳には入っているだろうか。父のことだから、研究に没頭して日本のニュースなど見てもいないかもしれない。

 既に知っているにしろ、あるいは知らないにせよ、僕から連絡を入れるのが筋だとは思うが、身体が鉛のように重くて動けなかった。

 月並みな表現になってしまうが、未だにエヴァが死んだという事実を受け入れられない。そういうことなのかもしれなかった。

 いや。

 敢えて言葉にすれば、そういうことなのかもしれないが、僕の中ではそれも違うように思える。

 僕は自身を苛んでいるのか。

 エヴァをみすみす死なせてしまった自分を責めている。

「よ、勇人。サンドイッチ作ったよ」

 ややあって、りんねが戻ってくるのが見えた。

「ねえ、マジでなんか食べないとまずいぞ、ユート。大丈夫?」

 テーブルにサンドイッチの乗った盆を起き、りんねは僕の顔を覗き込んできた。

「そうだな……食べる」

 食欲はなかったが、このままりんねに話しかけられ続けるのも鬱陶しい、という気持のほうが勝った。僕はサンドイッチに手を伸ばして、丁度その時だった。

 僕のスマートフォンが鳴り始めた。

 だが、僕はスマートフォンを手にとらなかった。

「出ないの?」

「やる気がしなくて……」

「しょうがないなあ、もう」

 りんねは小さく笑いながら僕の携帯電話を手にとって、そして表情を凍らせた。

「どうした? りんね」

「こ、これ……」

 震えながら、りんねは僕に向かって電話を差し出してきた。

「どうしたんだよ」

 僕は電話を受け取って、そして表情を凍らせた。

 携帯電話は、エヴァからの着信を示していた。

「エヴァ……、から?」

 怯えた様子で、りんねは僕の表情を伺う。

「違う。そんなわけがないだろう」

 開こうとしても、指が振るえてうまく開けない。

「エヴァってそもそも携帯電話持ってた?」

「持ってない……けど、内部にそういう機能を内蔵していた。彼女自身が、スマートデバイスだったと言ってもいい」

「じゃあ、なんで……?」

 ごくり、とりんねは喉を鳴らす。

「エヴァちゃんは、死んだ、というか壊れたのでしょう?」

 僕は無言で深呼吸をして、それからすっとりんねに視線を返した。なんだか、りんねと視線を合わせたのは随分久しぶりのような気がする。

「怯えることはないよ、りんね。きっと、エヴァは生前に特定の時間になった場合にメッセージが送信されるように設定しておいたんだと思う。それならば端末が壊れても機能するようにできる」

「あ、そっか」

 りんねは胸をなで下ろす。

「びっくりしたけど、言われてみれば簡単な理屈ね」

「けど、いくつか疑問はある」

「なに?」

「エヴァはどういう意図でこのメッセージを設定したのか? ということだよ、りんね」

 まるで、遺言状……じゃないか。

 このタイミングでメッセージが送られてくるなんて、あたかもエヴァは自分が死ぬことを想定していたかのように思える。想定していた、は言い過ぎにしても、自分が死ぬ事を考慮していたように思える。

「なんにせよ、勇人。それを開けば解決することでしょう」

「そうだな……」

 僕は指を屈伸して、そっとスマホに指を走らせた。

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