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名探偵はいつも後手でしか対応できない

「ここの店、気に入っているんだ」

 と自慢げにルナは言った。

 確かに、言うだけあって雰囲気のいい店だった。

「信頼の置ける店だよ。ここでならば、他ではできない話もできる」

「探偵さんだけあって、人脈が広いんですね、ルナ」

「まあね」

 とルナは胸を張る。

「はっきり言って、探偵なんて、自分一人ではなんの役にも立たないからね。みんなの協力なくしては成り立たないよ。漫画みたいだけど、情報屋みたいな人とも繋がりがある。もちろん、他の探偵同士の繋がりもある」

 支払いは僕が持つから好きなものを頼むといい、とルナはメニューを差し出してきた。

「良いんですか? ルナ」

「構わないよ。僕も、名探偵としての先輩には昔随分世話になったからね。そのぶん、後輩にはよくしてやりたいと思っているんだ。後輩探偵ができて嬉しい」

「助かります」

 何しろ、僕は一介の高校生に過ぎないしエヴァに至ってはアンドロイドだ。そんなに自由なお金がたくさんあるわけじゃない。ルナに協力してもらえるのはとてもありがたい。

「さ、好きなものを選びたまえ。甘いものはお好きかな?」

 そう言われても、こちらから協力をお願いしている立場なので、そんな自由に好きなものを頼むのは気持が憚られる。僕は少し考えて、コーヒーだけを注文した。

 一方でエヴァはそんな僕の思慮をスルーして、パフェと紅茶を注文した。別に、消化できるわけでもないのだが、エヴァが楽しそうに食べている姿を僕は気に入っていた。

「さて、名探偵のタマゴたる諸君」

 注文を終えると、ルナはうっすらと笑みを浮かべて言った。

「事件の話をしよう」

「ええ、ルナ、あなたとその話をするのは心が昂る」

 エヴァはそれに応じるように、笑みを浮かべている。

「そうだね。本当はもっと早い段階で腰を落ち着けて話をしたかったんだけど、伊東七夕殺しという予想外の事態が割って入ってしまったからね。そっちの現場に先に行く形になってしまった」

「もっと迅速なアプローチをしていたら……と思うと忸怩たる思いです」

「それは仕方のないことだよ、エヴァ。名探偵はいつも後手でしか対応できない」

 ルナは肩をすくめた。

「さて、まずは復習からいこうか。今回の事件を、連続殺人だという認識はあるかな?」

「あります……というか、連続殺人なんですよね?」

 僕はすぐに言った。

「実は連続殺人じゃなくて、模倣犯だった……という可能性を、ルナは考えてらっしゃるんですか?」

「そうじゃないよ」

 ルナは肩をすくめる。

「連続殺人だと考える理由はなんだ? 名探偵たるもの、論理付けが大事だよ。なんとなく、で思考を押し進めるのはオススメできない。どこかで思考が抜け落ちる。ひとつひとつ、丁寧にロジックを詰めていくことが解決に繋がるんだ」

「うん……ええと」

 僕たちが、この二つの殺人事件を連続殺人、つまり同一犯だと考えた理由は……。

「同じ『from heaven』のメッセージカードが残されていたから」

 言いよどんだ僕をフォローするようにして、エヴァが言った。

「この情報は報道されていない。故に、犯行をまねた模倣犯である可能性はない。このメッセージカードの存在を知っているのは犯人だけ」

「イエス。その通りだ。よくわかっているね、エヴァ」

 満足げにルナが言った。

「厳密に言えば警察内部から模倣犯が出た可能性もあるが、ここでは考えなくていいだろう」

「一番の理由はメッセージカードだけど、傍証としては同じ手段で犯行が行われたこともある。あと、推測される身長も同じ」

「そうだね、エヴァ。二人とも絞殺されている」

 くいっとルナは自分の首を締め上げるような仕草をした。

「メッセージカードと殺害手段は犯人しか知り得ないことだし、捜査本部からも凶器も同一かそれに近いものだという話が来ている。身長は誤摩化せないからね」

 仮に、なんらかの形でメッセージカードの存在を知って便乗しようとしても、鑑識が同一と判断するほど犯行道具を用意するのは難しい。

「from heavenってどういう意味なんでしょうね?」

「確かに……それは、僕も気になっている点ではある」

 ルナは考え込む。

「今にして思えば、切り裂きジャックのイメージを残すことから、連続殺人だと類推することもできたかもしれないが……いや、あの段階では無理だな。思いつきはしても、次の被害者が誰になるかなんか当てるのは不可能だ。注意を呼びかけるくらいのことしかできない」

「普通に考えたら、メッセージカードなんて残して、連続殺人を誇示する意味はないわよね?」

 エヴァがルナに問いかけた。

「ない、と思う。考えられるとしたら、心理的な作用だな……天国より、というからには復讐とか、そういう動機もありうる。既に亡くなった人に代わって、罪を裁くというニュアンスを感じることもできる」

「大豆生田御門に対する復讐、ですか?」

 僕は首をひねった。

「警察の方は既に調べてはいるんでしょうけど、ビッグネーム過ぎて与り知らぬところで恨みを買っていることもありそうですね。実際動機からの犯人特定は難しくないですか?」

「そうだね。動機に関しては裏付けにはなっても犯人を特定する手がかりとするのは難しいと僕は考えている」

「第一の被害者と第二の被害者、が連続殺人なのだとしたら」

 とエヴァは運ばれてきたパフェのクリームをすくいあげなら言った。

「なのだから、というか、もう連続殺人だと仮定して話を進めるけど、そうなのだとしたら、二人には何かしらの接点や共通点があると考えるのが自然なんじゃないかと、私は思うわ」

 クリームを口に運んだエヴァは美味しい、と笑みを浮かべた。

「第一の被害者二十三歳の女性、第二の被害者は二十四歳の女性よね。しかも、同じ市内に住んでいる」

 エヴァは水晶の瞳を上げてルナを見た。

「もしかしたら、知人同士かもしれない。仮に直接の面識がなかったとしても、二人を繋ぐ知人がいるかも……と考えるのはそんなに突飛ではないと思うわ」

「いい着眼点だね、エヴァ」

 にこりとルナは微笑んだ。

「これはもう、調べればわかることだから言っちゃうけど、二人とも出身高校が一緒だよ。学年も一つ違いだ。面識があった可能性は高い」

「ルナも人が悪いわ」

 エヴァは口を尖らせた。

「私が推理した意味、ないじゃない」

「悪いね」

 ルナは片目をつむった。

「捜査員のおかげだよ。僕は嫌われてるけど」

 ルナは肩をすくめて言う。

「もちろん、出身校校が同じというだけだから詳しいことはわからないけど、僕はまずこの高校に当たってみたいと思う。一緒に来る?」

「行きます」

 僕とエヴァは即座に答えた。

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