何故なら僕は名探偵だからだ
伊東七夕の遺体は、森の中で発見された。
死因は絞殺で、帯のようなもので背後から首が絞められた痕跡が認められた。
首に残る痕跡から推測して、犯人の身長は百五十五センチから百六十五センチほど。
加えて、被害者の亡骸の上には『from heaven』のメッセージカードがあった。
「……ということだそうだ」
沈痛な表情で、ルナが言った。
僕たちは再び、ルナの自宅に集まっていた。
ただし、ここに伊東さんの姿はない。妻を失っては、推理どころではないのだろう。
「どう思う? エヴァ」
ため息をついて、ルナは資料をエヴァのほうへ手渡した。
「驚いたわ。想定の外」
エヴァは史料に目を通しながら言った。センサーで資料を攫うだけなので、とにかく読むのが早い。エヴァは数十枚の資料を読み終わるとそれを僕に手渡して、
「連続殺人……と見るべきよね。ルナ」
「まあ、そうだろうね」
ルナは疲れた様子で言い、コーヒーカップを傾ける。
「警察としては、どういう見解なの? ルナ」
「おおむね、考えていることは僕と一緒だよ」
眉間に皺を刻んだままでルナは言った。
「連続殺人と見る向きが強い。ただ、予断を前提に動くことはできないので捜査本部は別に置くが、連携は密にとるようだね」
「伊東さんの様子は、どうですか?」
名探偵同士の会話の間隙をついて、僕は問いかけた。
エヴァがどう思っているのかはわからないが、僕にとって一番心配なのはそこだった。
被害者は伊東七夕。当然、夫であるところの伊東康さんは大きなショックを受けているはずだ。
「伊東くんは、彼は、律儀でねえ」
流石のルナもその点は気がかりなのか、心配そうに眉を下げて言った。
「わざわざ、この僕に連絡をいれてきたよ」
「なんと言って来たのですか?」
「この事件は、自分で解決するんだとさ。きっと、今頃犯人を捜すべくかけずり回っているんじゃないか?」
「そうでしたか……」
落ち込んでいるのを想定していたが、既に復讐を思い描いていたとは。ふさぎ込むのとどっちが健全なのか、僕にはわからない。考えてみれば、仮に会ったとしてもなんと声をかけていいのかすらわからないのだった。
「ルナは、どうするの?」
そんな人間のやりとりとは無頓着に、エヴァが言った。
「どう? というのはどういう意味だ? エヴァ」
「この事件について、どういうアプローチをするのか、ということよ」
「もちろん、解決するさ」
自信満々にルナは言った。
「みすみす伊東くんに手柄を渡すつもりはない。それに、伊東くんだって僕に手柄を譲られるようなつもりはないだろう」
「では、伊東七夕の事件を優先してあたるんですね?」
「愚問だね」
僕の問いかけに、得意げにルナは言った。
「答えは『両方』だよ、ユート。当然だろ」
「両方……と申しますと?」
「名探偵、皆を集めてさてといい……といういかにも解決編が始まりますって状況でさ。こっちの殺人事件の犯人はわかったけどそっちの殺人事件はさっぱりわかっていない、って話をしたら格好がつかないじゃない?」
ひょい、とルナは椅子から小さな身体を起こした。
「僕は一連の事件を丸ごと解決する。何故なら僕は名探偵だからだ」
着替えるから少々待ちたまえ、とルナは言った。
「着替えるって? ルナ」
「現場にあたるんだよ。良ければ君たちも来るといい」




