上に行っちゃだめ
「上に行っちゃだめ」
この話は私が小さかった頃の話です。当時、私は親の都合により田舎の祖母の家で暮らしていました。 祖父は私が生まれる前にはすでに他界していましたので、その家では私と祖母の二人で暮らしていました。 祖父の家系は代々その土地の領主でした。そんなわけあって、その家はとても大きかったのを今でも思い出します。
祖母はとても優しく、気さくな人でした。私はそんな祖母が大好きで何時も祖母と散歩に出かけたり、編み物をしたりと過ごしていました。しかし、祖母には1つ気になる事がありました。私が家の二階に上がろうとすると、人が変わったように飛んで来ては私を咎めるのです。
私は子供心に、祖母の行動に不気味さを覚える事が幾度ありました。私が夜寝ているとき、台所でしきりに何かを洗い続けたり。家で過ごしていると、無意識か天井を見上げる仕草をしたり。日頃の祖母とはまるで違う様子でした。
そんなある時、私は二階に上がってみようと思いました。祖母が家にいない間、二階を見て回ろうと思ったのです。恐怖心半ば好奇心半ばでした。
好機はすぐに訪れました。その日は祖母が村の行事か何かで家を開けていたのです。私は祖母が家を出て行くや否や直ぐに、階段の置かれている所に向かおうと思いました。そこは、玄関から伸びた廊下の突き当たりにありまして、昼間でも暗く、不気味でした。
遠目では階段の様子が暗くボヤけてよく見えません。ポツリポツリと足を進めると、奥の暗がりが段々薄れてきました。コォーと音が鳴るような気がしました。ふと後ろを振り返ると、玄関からの光が小さく差し込んでいました。
いざ階段までたどり着くと、不思議と恐怖心はありませんでした。むしろ、何とも言えない罪悪感や達成感が広がっていたと思います。しかし、階段を見上げた時、それらの感情は流れてゆきました。
ある意味、微かな安心感があったかと思います。
不思議と階段に埃はなく、陽光は少しですがありました。階段を上り切ると 、目の前に壁がありました。その壁を挟んで左右に小さな廊下がありました。左右の後方には小さな窓もありました。
私は奥の襖を見ました。左右の襖には目もくれずに、その襖に手をかけたのです。開けると二畳半程の部屋がありました。その部屋は畳こそ腐っているものの、何らおかしくないのでした。私は他の部屋を見てみようと思いました。右隣の襖を開けたのです。
私は状況が理解できませんでした。一畳程の空間に大量の髪の毛が積まれており、膿のような臭気に満ちていました。
私は襖を慌てて閉めました。そして引き返そうと思い、階段の方を向くと祖母が階段のところから覗いていました。
この出来事以来、私は母親と都会で暮らすようになりました。