新月を見上げる
月には女神が住んでいます。
その子供たちも住んでいます。
子供たちは好奇心が旺盛で、月の隣のいろんな星に遊びに行きます。
ある時、子供の一人が地球に墜落しました。
他の星に渡ろうと思ってしかし足を滑らせたのでした。
子供は目を覚まします。
体を起こしてあたりをぐるっと見渡すと、椅子に腰掛けた人間を見つけました。
よく見ると寝ているようでした。
子供は容赦なく叩き起こしました。
おい、起きろ。ここはどこだ。
女神の子供らしい遠慮の無さでした。
人間は目を覚まします。
そして自分を叩き起した子供を見て、ぱぁと顔を綻ばせたのでした。
よかった。目を覚ましたのですね。
その表情は、花の女神が育てるどんな花よりも愛おしく思えました。
子供は人間に恋をしたのです。
お母さま。人間に恋をしました。
女神は怒ります。
人間と神様の恋なんて許さない。今すぐ月へ戻りなさい。
それはできません。この人間と共にいたいのです。
ああそうか。ならば掟により罰を与えよう。
女神は子供に罰を与えました。
お前は月には戻れない。神の不死性を剥奪する。さらに、一度月の光を浴びれば露と消えよう。
月から堕ちた者への罰だ。あとはお前の好きにするといい。
ありがとうございます。お母さま。
ただ時々、故郷と母のことが思われて月を見上げるのです。
月が目を光らせていない夜に。