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今日俺は歳上の女の子に恋をした。

作者: シエン
掲載日:2017/03/10


今日、俺は恋をした。


別に一目惚れじゃないし、特に優しくして貰ったでもない。初恋というわけでもなく、かといって俺が恋多き男というわけでもない。


「歌声が可憐だし、ルックスも可愛いから良いよね、努力家だし凄く憧れるよ」


キッカケはこの一言だった。彼女の重圧も考えず、彼女の気負いも考えず、彼女の緊張も考えずに言ってしまった。この言葉は彼女を傷つけ、怒らせた。


言ったあとの彼女の反応を見てすぐに謝った。すると、彼女は許してくれた。でも他の人も周りにいたからなんかこの謝り方じゃズルい感じだと思って意を決して帰りに彼女にもう一度謝ろうと思って1人になる頃をうかがうことにした。幸いにも帰り道で二人きりになれたから、俺は先ほどより真剣に謝った。


彼女は怒り出した。

人に遠慮する事の多い彼女は人前では怒ってないふりをしていただけで、内心はとても怒っていたのだ。彼女の気持ちを吐露された。自分がどれほど頑張ってやってるか、それをまるで貶された気がすると。


「何も考えずに言わないで!」


この一言を聞いた時、自分がどれほど愚かだったかを痛感した。本気で謝っている気になっていただけで俺はまだどこか彼女に対して謝りの気持ちが足りなかった。その事がハッキリとわかった。


何度も謝り、晩御飯を奢ることになった。四人席に通されたが前に座らないでと言われ、対角線に俺は座った。顔色を伺おうとしても、すぐに顔を背けられた。

食事中も一言の会話もなく、気不味い空気だった。普段は美味しく感じる食べ慣れたご飯も、今日は野草に泥を塗りたくったように感じた。ただの水でさえこの世の苦味成分を全部混ぜたような味だった。明るいはずの店内は陰鬱とした廃屋に思えた。

食事を終わると、彼女は帰っていった。夜も遅かったので途中まで送ろうとしたが、いらないと言われて俺も帰る事にした。


どうしても気が収まらず、俺はスマートフォンで彼女に謝罪のメッセージを送った。既読のマークがすぐに付いたが、返事はすぐには来なかった。



明日の支度をしていると、スマートフォンが揺れた。SNSの新着メッセージを告げる画面をタップし、俺の気に入っている押し慣れたパスワードを打ち込み内容を確認した。


『私の方こそごめんね』


最初に送られてきたメッセージは短いこの文章だけだったが、次々に長文のメッセージが送られてきた。急いで送っているのか、誤字が多かった。簡潔に内容を書くと、俺より年上なのに怒った事も大人らしくなかったし、何よりその後に不貞腐れて冷たい態度をしてしまった事に対する謝罪だった。

そもそも怒らせる原因を作ってしまったのは俺だったわけで、彼女は何も悪くない。俺は急いで返信のメッセージを送った。


『いや、何も考えずに言った俺が悪かったです。本当にごめんなさい』


送ると少しの間があいた。1分程だったが俺にはそれが何時間にも感じた。彼女がどんな顔でこのメッセージを読んでいるかが不安だった。


『じゃあお互い様だったって事で』


帰ってきたメッセージはこの一言だけだった。短い文章だったが、この一言が何故か俺の心を強く打った。


その時、俺は彼女に恋をした。

すると不思議な事に彼女の怒っていた姿が少し愛嬌のあるふくれっ面でとても可愛かったと思えてきた。雨の後の濁った水溜りより不味かった晩御飯が一気に美味しい晩御飯だったように思えてきた。




時計は間も無く新しい日付になる事を示す。

俺はなんとなく長い事使っていなかった日記アプリを起動して今日あった事を書く。


見出しにはこう書いた。


〈今日、俺は恋をした。〉


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