狂気を引き受ける男
プロローグじゃないしあらすじも別にあるってことは下らないこと書いていいスペースはここってことで良いんですかね?
なろうでは初めましてです。宜しくお願いします。
露政本とUNCLE本を出したらしばらくどっちも書ける気がしなくなったけど何も書かないと暇な時間が潰せないことに絶望して久々すぎるオリジに手を出した結果がこの話です。
暇な時間=執筆時間=職場の勤務時間、ゆえに仕事が忙しくなったり仕事は相変わらず暇でも作者のモチベが切れたりネタが切れたりしたら速攻ポシャります。
途中も終わりも見えてません。終わらせる気力もあんまりありません。
要するにこの話は本拠たる露政二次で燃え尽きた作者のリハビリ兼暇潰しの残滓ってことです。それでも良ければお付き合いください。こうして書き出してみるとほんとクズだな俺
雑然極まる街中に、女の叫び声が響き渡った。
人が密集し、物も溢れるその中を、若い女が夢中になって逃げていく。逃げる女の作る道を、後ろから男が追っていく。
「俺のものにならないなら、いっそ……!」
逃げ惑う女と追い縋る男の距離は徐々に縮まっていた。それもそのはず、丸腰の女に対しては反応の鈍い人々も、刃物を持った男に対しては弾かれるように道を開けるからだ。
駆けてくる女の前にわざわざ正面から立ちはだかり、女の身体を腕1本で受け止める者が有った。
「成程、いい女」
恐怖に充ち満ちた眼差しを浮かべる女を背後に庇い、その人物は刃物男と対峙した。
「その狂気、俺が引き受ける」
はじめ刃物男は、目的の女と突然現れた男とを見比べていたが、やがて怒りに捲かれたように右手の凶器を振り回した。三人を取り巻く人の輪が、瞬く間にその内径を増す。
「誰だお前……そこをどけ!」
「No Oneと名乗ってる。何でも良い、お前は俺に逆らえない」
自称ノー・ワンは「何処にでも行け」と女に命じ、結果として女は人混みの中に紛れた。だが今や刃物男の感情と得物の矛先は、滑稽なほど愚直に対峙する男へと向かっていた。
刃物男はノー・ワンを斬り付けようとするが、その切先は一寸先で躱される。さも退屈そうな「蠅がとまるな」という呟きが周囲に聞こえた矢先、刃の掠めた左袖が割け飛んだ。そこに腕は無かった。
刃物男の双眸が驚愕に見開かれる。ノー・ワンの目線は飛んで行った袖に向かい、自らに向けられる凶器などには最早何の興味も有りはしない様子だった。
「悪いな、驚かせて。ちょっとばかり遊びが過ぎた」
首筋目掛けて振り下ろされた刃先は、敢えて外したのではないかと見る者に思わせるほど、ものの見事に躱された。相手の攻撃など気にも留めず、ノー・ワンは「有る方の」拳を撃ち放った。その直撃を顎に受けた男の首から上はあらぬ方向へ振り切り、身体はその場にどうと倒れた。
「……はい、見世物お終い。どいたどいた」
余韻も何も気にすることなく歩き出すノー・ワンの前に、彼の逃がした女が再び現れた。
「あの……ノー、ワンさん? ありがとうございました、本当に……」
「なに、まだ居たのか。次は良い男に好かれろよ」
そう報いてきたノー・ワンの顔立ちを、女はさりげなく眺めた。彼女の見るところ、ノー・ワンは醜男ということもなかったが、特に整った面相をしているわけでもなかった。特記すべき箇所は一つも無く、強いて印象に残る要素といえば、黒の短髪、現地民~すなわち、たとえば女自身~とさほど変わるところの無い浅黒の肌、それに翡翠がかった鳶色の瞳――それだけだった。
あまりその顔に印象というものが無い故に、自分の命を救ってくれたはずの男のことを、彼女は男が去った瞬間から忘れ始めていた。