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第七話 現在の役割と予兆


 それから、数ヶ月して――面白い奴がやってきた。

 名は、道明寺寿といって、田舎からやってきた侍だ。

 武士ってやつを見るのは初めてなので、面白かったし、何より好感が持てた。

 キレる選択肢を選ぶときもあったが、寿は案外、御劔や他の奴らより男らしくて。

 面白いから、ついつい心許してしまう。


 寿の為に、万屋を営もうという計画が持ち上がった。

 皆は反対しなかったし、何より今まで願い事なんてしなかった綾様が、是非にと頼み込んできた。



 ――それで、現在に戻るとするか。

 現在の話へ――これで、オレが悪者だっていうことは、きっと誰もが判ってくれたと思うから。


 なんて、何処の誰にも判らないぼやきをしてみる。







 寿に酒の味を教えてやろうと思ったら、泉までついてきやがって。

 お貴族様の目の前で、未成年に酒なんか飲ませたら、偉い目にあうだろうが。


 江戸時代という、この国のモチーフ通り、居酒屋は茶屋だった。

 昔は茶屋で飲み食いしたらしく、この店もちょうどよく本などで見かける和風の店。

 適当な材木で出来たテーブルに、丸いすが備えられていて、そこに腰掛ける。

 店の中は、焼き鳥の匂いで充満していて、看板娘は忙しそうに焼き鳥をお客さんに提供している。

 看板娘は江戸時代というモチーフを売りにしているからか、桃割れの髪型だった。

 客どもといったら、外国人だったり、日本人だったり客層がばらばらだ。そこまで広い店ってぇわけでもないのに、様々な人種がいるんだなーって思い知る空間。

 きっと飛び交う言語の違い故にだろう。

 皆まさかここに輝夜姫かぐやひめがいるとは思うまい。

「最近ね」

 寿がねぎまへ齧りつきながら、一気に炭酸ジュースで飲み込む。

 ぐっぐっぐっと飲み込む様は、これがビールならいい飲みっぷりなんだろうなぁと思った。

 他の奴らはついてきてくれなかった。

 オレが酒飲みにいくというと、付き合ってくれるのはデクスターか秋雨くらいで。

 そんな秋雨も最近はオレの酒癖の悪さに呆れて、飲みの席は避けてくるようになった人物側へと悲しくも成り代わった。

「最近ね、砂粒の音を聞くんだよ」

「ああ、私もだよ、寿くん。耳に砂が入るみたいな音で気持ち悪いんだ」

「何だそれ、診ろってか?」

「うーん、実際に砂が入ってるとか、体調が悪いとかじゃないんだよ、ライアー」

「私も。それで何か、ちょっとだけ視界が揺れた気がしたけど……」

「寿は問題ない、泉はちょっと眼球見せてな」

 オレを挟むように座ってる子供達の話題に乗ってやる。

 泉の瞼を固定してじっと見てみるも、裸眼だからなのか異常らしきものは見当たらない。

「テメェも何もねぇな……何かの流行病か?」

 流行病の前兆とかだというのならば、警戒しなければならない気がするが――と考え込んでいたらとんでもない言葉が放たれる。

「綾さんの泣き声も一緒に聞こえる気がするんだよ、砂の音のとき。僕だけかと思った」

「そう、綾様の静かな泣き声が聞こえるんだよね」

 綾様の話題だしゃあオレがすぐ食いつくと思いやがって、気にいらねぇ。

 でも食いつくよ、気になるだろ! 何だ、砂の音? 綾様の泣き声?

 一体どういうことだ?

「あとね、気になるのがその日見る夢って何か懐かしい人が、さよならって言ってくる夢なんだけど、誰だか判らないんだ」

 泉の言葉に、寿まで頷く。

 二人揃ってどういうことだ?

「まぁ兎に角気をつけなよ、ライアー。何か嫌な予感するんだよ」

「思春期の子供って、直感が鋭いらしいからね。私も寿くんも、君達の中で一番若い」

「……ン、まぁ気に留めておくわ」

 獅子唐を口にしながら、ビールを頼もうとすると、寿が「すみません、炭酸アップルジュースで」って訂正しやがって。

 確かに炭酸好きだけど、今は酒のみてぇ気分だったのに。


 気を利かせて、寿に泉を送らせる。

 オレは――城にもどらねぇと。

 江戸城に戻って、現状報告しねぇとな。


 江戸城へ向かう最中は、あの日に少し似ていて、雪がはらりはらりと降っていた。

 門前まで行くと、門番がオレを見るなりセキュリティカードを見せるように言うから、めんどくさくて自分の禁止マーク見せてやった。

 このマークを持ってる奴は大半が狗だから――。

 デクスターや秋雨が例外なだけだ。

 通されて、茶室まで向かう――茶室につくと僧正が座っていて、にこにことしている。

 綾様の代わりに、僧正となられたらしいが、オレにはとんとこいつの美しさなんつーもんはわかんねー。

 ただ女みてーな顔してるだけじゃん、人間的な魅力とかなら、まだ寿のがあるな。

 美しさっていうのは、見目だけで決まるもんじゃねーんだよ。

 仕草とか、熱の籠もる視線とか、そんなもんがあからさまなら、萎えるんだよ。

 綾様は純真無垢だからこそ――それでいて、穢れたこの手を取ってくれるからこそ……くそ、こんなこと思うだけで心臓が痛くなる。

 あの人を想うことさえ許されない罪を、そろそろ受け入れないと。


「嗚呼、お帰り、私の狗」

「――ご報告に参りました」

「……最初は血生臭い奴だと思ったが、お前様も中々いい男だな」


 下卑た視線は、もういい加減飽き飽きすんぜ。

 そんな遣り取り、今までこいつと何回やってきたか。

 オレは微笑んで、少年面した僧正の顎を捉えて舌舐めずりしてやると、僧正は顔を赤くする。

 好色な坊さんだ。

「報告は――どう致します?」

「後にせよ、まずはお前様を味わいたい」


 胸が痛む――こんな穢れたオレが、綾様を守っていていいのかと。

 とりあえず、こいつを抱いてる間は、人間らしい感情――さよなら。

 触れられた瞬間、吐きそうになる気持ちを飲み込んだ。

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