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第六話 だからオレは嘘吐き野郎




 御劔と何だかんだ交流する手段や、糸口を見つけた。

 ゴミツをちらちらと話題に出せば良いんだ。

 ゴミツから解放される手段があるのだと、ちらちらと時折意味深に会話に織り交ぜて置いて、気を引く。

 御劔はそれでも冷静で、絶対に感情的になることなんてなかった。

 だが別の人物が釣れてしまう――木崎きさき れい

 怜は御劔と結ばれたいからと、オレへ必死に媚びを売ってきた。

 最初は警戒心に満ちていたのに、やけに御劔に対して歪な執着心を持つ奴だと、オレは苦笑した。

 嗚呼、こいつ、御劔に恋してるんだなァって、微笑ましくなったがそれとこれとは別。

 御劔の情報を引き出したいが為に、御劔の専属医になることを申し出る。

 怜は最初反対したが、トドメに政府からのお墨付きである、免許でも見せてやると満足したのか頷いた。

 だけどな、怜。オレの名前を忘れていないか?

 オレはライアー、嘘吐き野郎さ。

 ゴミツに関して事実なんて、簡単に教えるわけないだろ――とっておきなんだから。


 何だって皆そんなに純粋なんだかって可笑しくて笑いたいくらい、調子に乗っていた頃だった。

 人に対して捻くれて、斜に構えた態度をとり続けて、人間なんてと人を嫌っていた。

 あの御方以外を大嫌いになっていた時期だった。

 でもあの御方へ思いを募らせると死んでしまうし、オレが死んだら誰もあの御方を守らないから。

 オレはあの御方が生き続けるのなら、それで満足だった。

 自分さえも粗末にしていた。


 とある宵に、怜と御劔の会話を立ち聞きしてしまった。

 二人はオレに気づいていないみたいで、オレはただの内緒話かと思って情報を何か引き出せるのかとわくわくして聞けば――オレの話だった。

「怜、もうやめておけよ。オレはライアーを俺の運命に巻き込みたくない」

「いいえ、駄目です。あの人はゴミツの情報を何か持っていて――」

「いや、きっと何も持っていないよ、少なくとも現世用のデータは。嘘吐く奴は、何となく判る――あいつはそれでも嘘を吐かなきゃいけねぇ事情があるんだろ。だから、これ以上ライアーを追い詰めて、嘘吐きにさせないでやってくれ」

「御劔! 希望を持ってください!」


 希望を持ってないとかじゃない――こいつは本気で、オレが何を知っていて、何を知らないかまで見抜いているんだ。

 オレは、その日動揺で、心が穏やかにならなかった。

 怜の屋敷にオレは寝泊まりしていて、思わず屋敷の庭でゴミツの名を呟いた。


「ゴミツ」

『お呼びか、廻らない子』

「……本当に、何か策はあるのか? オレの寿命は本当に延びるのか?」

『貴殿次第だ、全ては。昔、貴殿に呪いがあると教えた陰陽師に繋がる者を教えることも可能だ――ただし、本当に御劔がいつまでも私の天女であるならば』

「……その保証をしろと?」

『ああ。肉を食わせてやってくれ――時折食事に混ぜれば良い。木崎家の奴は慎重で、喰わせなんだ』

「……――肉じゃなきゃ駄目なのか?」

『俺はそこまで難しいことでも言ってるかね? 一口でも良いのだよ、たった一口牛や豚や鳥を食べさせればいい。一月に一回。ただの人間ならば、ご馳走であろう?』

「……――だからって……――」

『なァ、廻らぬ子や。貴殿の時間は残り幾つか、覚えてはおらぬのか? そう長いわけではないと思うのだが、はて兄者は先に死んだ分貴殿は消費が激しいだろうな。また、由嘉里と会いたいだろう――?』

 ゴミツはいつもオレの痛い箇所を突く――。



 だから、だからオレは――。


「オレは、綾様だけの――由嘉里だけの幸せを願う」


 これが回答にならないと判っていながら、こう応えるしかなかった。



「御劔、オレさァ本当は政府にテメェの情報引き出せって言われてるけど、嘘の情報教えるようにするワ――……オレは、これからテメェの刀だ。テメェはオレを守ってくれた」

 後日、御劔の懐刀になる忠誠を、たててみる。

 御劔は嬉しそうでも、嫌そうでもなく、ただ「そうか」と笑った。

 オレは、嘘吐きで、最低で――テメェに密かに牛肉を食わせてる、鬼畜。


 ――テメェが幼い頃、人肉を食べて以来、口にするだけで狂気的になると言われてる肉を。



 そんなオレを知っていて、綾様はじっと見守っている。

 止めるでもなく、怒るでもなく、邪魔するでもなく――。

 時折、静かにオレにばれないようにと努めながら泣いてるだけ――その涙は誰よりも、オレの心臓を痛めた。


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