第三話 リリーさよなら
部屋を離れると、綾様がオレを探していた。
「ライアー、大変だ! 来てくれ!」
「何があったんすか」
「お前様の組の腹心に、リリーが……嗚呼ッ!」
嫌な予感というより、嫌な現実が待っている気配がした。
オレは綾様の案内で江戸城の門前まで向かう。
門前には腹を刺されて、真っ赤に華を散らしているリリーがいた。
リリーはもう虫の息で、オレにはすぐさま助かる手段はないのだと思い知る。
――こういうとき、いつも思い知るんだ。医者の無力さを。
医者が無力だと知っているから、なるべく患者を増やしたくなかった。
けれど、それは却って己の未熟さを晒すだけの、馬鹿げた行為なのだと思い知る。
「ライ、こっちへおいで、ライ。由嘉里も」
リリーが虫の息でオレ達を呼び寄せる。綾様は号泣して、必死に血塗れのリリーに抱きつく。
「――由嘉里、もう後追いしたら駄目だ。ライが一人になる。ライ、由嘉里を任せた……御劔様をもしも見つけたら、御劔様と仲良くしろよ」
――兄貴が息絶えて、綾様はそれに気づいているのに、必死に兄貴の名前を呼び続ける。
慟哭、それから、吹雪が。
吹雪が起きたから、江戸城へせめて戻ろうとしたら、オレも綾様も荷物を取り戻すことなく追い出される。
「穢れた仏は要らない」
最後に言われた言葉に、怒り狂った――。
「綾様がどれだけ……ッどれだけ、テメェらの為に犠牲になったと思ってるンだよ!」
オレは知っている。
この人の睡眠時間が一時間だと。
祈られる為だけに存在し、一時間しか眠る時間を許されてないのだと。
オレは知っている。
この人の食事が誰よりも貧相だと。
生き仏なのだから、豪勢なものはいけないと。
オレは知っている。
この人の恋ですら、皆が疎み、邪魔扱いし誰も喜んでくれなかったと。
恋など煩悩を持っていては、ただの人間だと扱う。
門前払い――誰もオレの言葉に反論しないし、興味も無い。
オレは、綾様を連れて、どこか泊めてくれる宿や民家を探したが、事前に江戸城でお触れが出ていたらしく誰も泊めてくれなかった。
それで、最初に戻る――。




