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第一話 千年の呪いと祝福

 オレと兄貴は、時間が限られている。

 オレと兄貴に持たされている時間は、千年。

 それは、死して尚続く年数含めての時間。最初の人生に出会った陰陽師に教えられた。

「お前達の寿命は千年だ、その間記憶も引き継ぐ。お前達が兄弟である絆も深まったままだ。但し、千年過ぎたら、お前達は跡形もなく消えるだろう。魂でさえ消える」

 魂が消えるなんて、別にどうでもいいと思った。

 オレと兄貴がお互いを忘れないで、お互いそのままでいられるなら、それでいいんだって。

 どうせ死んだら記憶なんて無くなるんだから、ラッキーじゃん、なんて思っていた。

 ――あの方にお会いするまでは。


 当時の名前は、由嘉里ゆかり

 由嘉里は、温和で優しく、清楚な姫君だった。

 オレも兄貴も、貴族だったが由嘉里の家のほうが地位は高かった。

 由嘉里の顔を見たことはなかったけれど、それでも噂を聞くだけで胸がどきどきした。

 オレは意気地無しだったんだ、そんなに惚れてるなら夜這いすればいいのに。

 兄貴はオレと違って、由嘉里へ夜這いして、見事結ばれる。

 しかし、由嘉里へ惚れていた貴族達が怒り狂って、兄貴を殺す。

 由嘉里はショックの余りに、自害する――オレだけが取り残された。

 オレは単純に、「残り時間を合わせないと」とふと思い出して、後を追って自害した。



 それが最初の運命。

 それ以来、奴隷と王子、騎士と姫、領主と執事など、様々な身分違いの恋を見てきた。

 兄貴と運命の人の。

 運命の人は、最後の最後にとんでもないものへ生まれ変わった。


 綾という生き仏に――。





 当時のオレと兄貴は、外国のマフィアでただの取引で江戸にきていた。

 偶然、城の中を歩いていただけだった。偶々日本に来ていただけだ。

 江戸城とうちの組で取引があったから。

 江戸城の中は、白檀の香りが強くて、いまいち馴染みの無い筈のこの体にも馴染む。

 だって遠い過去で、嗅いだ香りだから。

 この体が覚えてないだけで、記憶はオレも兄貴も昔からずっとずっと引き継いでいる。

 二人で、ずっと由嘉里の話をしていた。

 由嘉里に会いたいと寂しがる兄貴を励ますために、商売者の女を宛がうこともあった。

 商売者の女はこぞって兄貴に抱かれたがったが、条件はただ一つ。

 最中に由嘉里と呼んでも、許すことであった。

 オレはオレで、どうせ会えるわけねぇんだと思い、適当な女を抱いて過ごしていた。


 取引が終えて、江戸城の中を案内されている最中だった。

「さぞかし物珍しいでしょう?」と瞳や笑顔が物語っていたが、馬鹿馬鹿しい。

 月という存在がなければ、存続でさえ難しく、国全体でテーマパークにされたというのに。悔しささえないときたものだ。

 呆れて、遠くを見つめていた。何か集団がいたので、何だろうとぼんやり興味を持った。

 遠くにいる人は美しい袈裟を着ていて、傍に沢山のお坊さんを引き連れていた。

 お坊さんどもは禿げだっていうのに、その人は美しい灰色の髪の毛だった。

 長い睫、ぷるんとした唇、優麗な瞳。何もかもが整っていて、由嘉里を思い出す。

 兄貴はその場で、持っていた荷物を落として、灰色の人へ駆けだしていった。

「由嘉里!」

 兄貴は、昔からの癖で生まれ変わる恋人を、最初の名前で呼ぶんだ――。

 だからなのか、灰色の人ははっとした眼差しで兄貴を見つめる。

 お坊さんをかき分けて、灰色の人を抱きしめて、大泣きする兄貴を見て――オレはまた「嗚呼、奪われた、終わった」と寂しさを感じる。

 今度はオレが先に見つけて、結ばれたかったんだ――。

 オレは、由嘉里だって気づかなかった時点で、その資格は持ってないのだろう。

 でも、他の野郎と結ばれるより、二人が結ばれる瞬間が見られて幸せを感じるなんて――オレもなんて言うか、哀れな性分だなって笑いそうになる。

 その後二人は少しの間だけ、幸せな時間を過ごす――だが別れはくるもの。

 生き仏様がマフィアなんかに誑かされるのは、良くないと思う輩が当然いるわけで。

 だって他の奴らにとっては血塗れで、血をぞうきんで拭くような穢れた輩に見える感覚なんだから。

 実際、殺さないでくれと泣き叫ぶ奴も殺してきた。血がシャワー代わりのような、血生臭さだと言われても否定できない生活だった。

「ライアー、一人治してほしい患者がおるのだ、己では力になれず……」

「誰ですか」

 オレは組織では、薬が非常に手に入りにくいから、毒を使って人の怪我や病を治すという行いをしていた。

 綾様はオレが毒医者だというのに、病を治すというのが嬉しそうだった。

 案内されて、ついた床の間では金髪の男が伏せっていて、苦しそうだった。

 オレが近寄って、おでこに手をあてると、男がオレの手をがしっと掴んだ。


「ようやく、ようやく――」




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