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エピローグ

 万屋が開き、安寧秩序と天下布武の二組揃って、打ち上げが開かれる。

 会場は寿と以前飲み会をしていた、茶屋で。看板娘は相変わらず忙しそうだった。

 時間は昼間で、花見を終えた客層が二次会に選んできてる気がした。

 そんな席で、オレは何もかもぶちまける。

 綾様が時間を巻き戻し続けてきたのも、何故そうしなければならなかったのかも――。

 綾様はオレと二見をくっつける為、何より二見が生き返る為に、そうした契約をしていたのだと小さく笑う。

 ゴミツに関する情報を全て吐き出そうと思ったのだが、まぁそこまで都合良くいかず、時間の影響さが出てきて、オレはゴミツに関する情報を前世以外の情報から思い出せなかった。

「つーわけで、この時間軸でゴミツをどうこうしなきゃ、オレは消える。今回がラストチャンスなんだ」

「……物凄い非道なのは伝わりました……。寿くんの件といい……あの牛は本当に……」

 怜が力なく笑っていて、寿は混乱しているのか、頭を抱えていた。

「はぁ? え、何、どういうことなの?」

「要するに、皆の敵はゴミツってことだよ」

 泉が目を細めて、小さく呟く――嗚呼、こいつも苦労してきたもんな。

 時間軸で、寿の件もどうにかしてやろうと努めたが、それはオレの運命には関わりないからか、寿の運命は変わらなかった。

 泉と寿と八葉は今も、すれ違ったままだ。



「マジぶっ潰す」

 デクスターは目が据わっていて、ジョッキでビールをがぶ飲みしていた。

 がぶ飲みするのを止めようとする秋雨。

 秋雨はオレとデクスターが解放した、政府の犬。

 オレと同じ毒医者で、見目は糸目の東洋系の男性だ。

「デックス、落ち着きなヨ。ライアーさん困ってるヨ」

「いいんだよ、少しは困らせても! あたしに内緒で! この馬鹿が、苦しみやがって!」

「……ごめんヨ、ライアーさん。デックス、酒癖普段良いのに」

 秋雨がデクスターの保護者っぽく、ぺこぺこと頭を下げる。

 その瞳にはオレへの牽制が見えて、へぇーそういうことか、とにやにやしたくなった。、

 だがデクスターは、秋雨の思いに気づいてないのか、オレの愚痴を秋雨にぐだぐだ絡んでいた。秋雨が苛ついていたのが小さく判って、オレは笑いたくなった。

 そうだな、秋雨、テメェがデクスターを幸せにしてくれるといいな、なんて思ったりもする。

 静かに聞いていたのは、ミシェル。

 綺麗な黒髪の女性で、冷静さをこの場でも失っていない――悪く言えば、ちゃんとした第三者で誰の味方でもない。

 ただもっと御劔や、ゴミツの情報を聞きたがっていたような気配もしたが、余計な言葉も言わない。ちゃんとした「第三者」から逸脱しない、不思議な存在だった。

 違和感のなさが逆に場に馴染みすぎてて、違和感だらけだったんだ。

 普通だったら、もっと好奇心に任せて色々聞いたりしてもおかしくない。

 なのにミシェルは、ある一定のラインから入ってこない。

 冷静さを見て、泉が表向きのリーダーなら、裏側のリーダーはこいつだと思った。


「オレは! 兎に角、ゴミツをぶん殴りたいんだ! 寿、テメェもだろ!」

「あ、うん、それは大いに賛成!」

「だから、できる限り協力はする――御劔、改めて言うぜ」

 オレは御劔に近づいて、御劔へ傅く。

 綾様でもなくて、――今度こそ、オレはテメェの恩返しに力を貸す。

 あの時、この未来へ躊躇いもなく行けたのは、テメェの後押しがあったからだ。

 テメェがいなきゃ、何もできなかった。

 これは罪とか罰とか、もうそんなものどうだっていい。

 そんなもの捨ててやる、テメェを守るためなら。

 オレの身近な幸せ全て守れるなら――!


「――御劔、オレはテメェの刀だ」

「――うん、有難うな」

「肉はもう食わさねぇし、排他するから」


 御劔の目元が少しだけ反応した。

 オレにだけ判るように、御劔は怜を示唆する――瞳だけで。

 示唆された怜は気づかずに、日本酒を飲んでいた。



(――そうか、ゴミツの奴、今度は怜に纏わり付いて、肉を食わせているんだな?)


 この世界でも、何処か御劔がぶっ壊れてるのは、まだゴミツは懲りてないからだと判った。

 何というか、あいつが読めない。

 そこまで御劔を壊すことにどうして拘っている?

 ゴミツの求める化け物たる天女って、どういうことだ?

 ヨナルデパズトーリになるほど追い詰めるなんて……。



 どのみち、オレらには後先ないんだ――。

 オレは、皆をその場に残し、怜だけに呼びかける。

 怜は思うところがあるのかあっさりオレについてきた。


 外に出ると、吹雪はやんでいて、オレと怜は桜の木の下で話す。

 桜はやけに綺麗な花弁を振りまくように、風にさわさわと木々が揺れる。

 風に花弁が揺れて舞い落ちる、怜の頭にも桜の花弁が乗っかっていた。

「……ライアー。貴方の出会った最初の記憶の、陰陽師……でしたっけ?」

「ああ、あいつか。どうした?」

「探してみませんか? 僕も聞きたいことがあるんです。何より、今のところ人外の味方は巡さんだけ。八葉は判らない、二見さんもどうでるか……。ならその陰陽師に頼るといい気がするんです」

「でもあいつ何処にいるか判らないし、この世界に生きてるかも……――まさか」

 今、こんなことを言い出すなんて、嫌な予感しかない。

 オレは怜の首を見つめる――怜はゆっくりと首の目を少しだけ晒してくれる。

「ええ、そのまさか。僕に、この頸目くびめを移植してくれたのは、その陰陽師です。今は何処かに旅に出ていますが……僕へ興味を持っていまして、ね。……今回の貴方の話で確信しました。有難う、貴方が素直に話してくれたお陰で、僕は」


 怜は優しく温和に笑う。


「僕は、迷いもなく御劔の元から去ることができる――」


 時が止まった気がした。

 止めなければならないのは判ってはいたが、怜の瞳は本気で――かといって、御劔を捨てるという意思の瞳ではなかった。

 戦場への覚悟みたいな瞳だった。そんな瞳をした男を止めるなんて、無粋な真似だと思う。

 何より、オレが言っても止められないんだと、物言っている。

 何か言う前に怜は手をひらりと振って、会場へ戻る。

 陰からこっそり見つめていた綾様がオレの近くに歩み寄って、オレの頭を背伸びして撫でる。


「これ以上いい運命にはもう出会わないだろう。何があっても、巻き戻すまい。それがたとえあの方を傷つけても――」

「……――なんて言うか……ゴミツは、何が狙いなんでしょうね。これだけ、自分へ怒りや恨みを買って」

「そんなの、決まっている。最初からあいつの狙いは――御劔様を手にすること、御劔様を化け物にすること、ただ一つだ……」


 綾様と二人で、空にある太陽を見つめる。

 太陽は、安寧秩序と天下布武の洋館を優しく照らしている。

 これから先、何があっても安眠できるような慈しみで。


「ヨナルデパズトーリ、不思議だな。己もお前様も、あの御方の瞳に出会ってきっと殺されたんだ。今までの自分という概念を。あの御方に救われたのは、きっと……己らは自分自身に巣くっている魔物しがらみを、あの御方が殺してくれたのかもしれん」


 その口調は、「だから怜の魔物しがらみを殺されるのを待て」とでも、励ましてくれている気がした。

 綾様がそっと手を繋いでくれる――手を繋がれても、もうオレの心臓は苦しさはなかった。

 それはきっと呪いが消えてるとかではなく……、この方への恋心を完全に消化できたからだろう。

 オレは、五百年の思いから、解放された清々しさに思わず笑ってしまう。

 思案したことがばれたのか、綾様もオレに笑いかける。

 オレと綾様はようやく、正しい関係に戻れた気がする。昔からの馴染みってだけじゃない、きちんと相手と対話してできていく信頼で成り立つ関係に。


 だから、さ。

 だから、二見。

 後はテメェを助けにいくから、待っていてくれな。

 テメェが天女以外と結ばれるのを許される運命を見つけにいくから。

 皆と一緒に――。


 砂粒の音が聞こえる――さらさらと廻っていた砂粒が、ようやく途絶えた気がした。

 あれは、きっと砂時計の音。

 廻転し続け、時を巡り続けることしか出来なかった砂時計の砂粒が、途絶えた音。


 もう誰も、さよならと言わない――。


 聞こえたのは、小さな犬の鳴き声。

 テメェの与えた、恋という毒の甘さに酔いかけて、痺れる――。

 恋の暖かみを思い出せたのは、久々で、嬉しかった。

 この鼓動を、忘れるなんてもう許さない。

 優しいこの想いは、オレだけのもの。あの狗は、オレだけの大事な大事な狗。


 ゴミツから二見が奪ってオレに渡したアクセサリーが、首元で揺れていた。

 振り子時計のように。




ライアー編完結。

タイムリープ物を書きたかったのですが、うまくいきませんでした。

もうちょっとタイムリープで頑張ってる様子が描ければよかったですね。

本来の話だと、綾が寿を殺しかけた上に綾が黒幕(なろうでのSAVANTでは出ません)を庇ったのを無かったことにするために、ライアーはタイムリープするんですが。

でもその話だと、巡が犠牲になる上に、巡の生まれ変わりと両片思いのような関係になるんです。

巡との関係性、巡の在り方を変えたい為のお話でした。

さぁ皆さんゴミツへのヘイトが溜まりましたね?

怜編に続いたら、また溜まりますよ。

読んでくださり有難う御座いました!

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