第十七話 新しい未来へ
綾様を愛していると想っていた。
だけど、吹雪の中。口を開けば、一つの名前が出てくる――二見。
綾様はびくんと反応し、此方を向く――。
ショートケーキみたいな世界だと思っていた。
けれど、一瞬でただ吹雪の中で死にかけているという、当たり前の現実を思い出す。
ショートケーキみたいに甘ったるい世界なんて、現実には有り得ない。
ショートケーキでさえ、苺は甘酸っぱいのだから。
オレは綾様を見つめ返しながら、何故かポケットに入れていたメモを綾様に手渡す。
綾様はこの吹雪の中だというのに、やけに興奮した様子で、泣きそうになっていた。
ひたすらに「何故」「戻ってくるな馬鹿」だの、オレへ罵詈雑言してきたので、可笑しくなった。
こんな必死な綾様、自然に感情的になるこの御方は初めて見るなぁって、長年一緒だったのに思ったんだ。
微苦笑を浮かべると、綾様は一瞬黙ってから、周囲へ声を荒げて助けを呼ぶ。
もう貴方だけでも助けたいなんて思わない。オレがこの人を守らなきゃなんて思わない。
ただ、貴方にこの背中を預けたい。貴方と背中を合わせて、共に戦っていきたい。
貴方が戦う意思を持ったのなら、オレも覚悟を決めたい。
貴方だけが戦うなんて、もう嫌だ――貴方だけに全て背負わせたくない。
分かち合いたいんだ、二見と出会う前の思いとは違う意味で。
苦しみを知りたい、嬉しさを分け合いたい、悲しみを減らしたい。
大事な人だけど、それはもうオレがこの人の従者になりたいという思いではなく、ただただ、隣に対等に立ちたいと思った。
だから、貴方の背中をオレが守るから、貴方にオレの背中を預けたい……。
そうすれば、お互いの敵と向き合いながらも、後ろは安心できるだろ?
安心して、戦いを挑めるだろ?
意識が途絶えそうになる前に、御劔の顔が見えた――。
それから、起き上がると綾様は衰弱していて。でも薬は御劔の屋敷に何故かあって。
御劔も綾様に手渡したメモを見ると、オレが毒を作るのを許可して、オレはそうして江戸城に戻らなかった。支配される的な意味合いでは。
だがこのままでいい訳では無い。
江戸城にヨナルデパズトーリの情報があるままというのは大変に問題である。
ならばそれを利用して、何かできないだろうかと江戸城に戻ってみた。
情報管理室のパスワードなんてもう手慣れたモノで、脳では覚えて無くても、パネルを見ただけで指が自然と動く。
ノーミスでクリア、情報管理室に入って情報を漁るが、今のところヨナルデパズトーリについては書かれてない。
「何も、なしか」
「そこにいるのは誰じゃ?」
おや、こりゃあ懐かしい顔――っつっても向こうはオレの顔しらねぇんだっけ。
僧正だ。こいつに出会ったせいで、オレは恋を抱けなくなって……。
にっこり微笑みかけると、僧正はオレに見惚れる。
「テメェはもう用済み、かな」
「は?」
「自分の目の付け所に嘆け」
このオレを願ったことだとか、とっても運が悪かったなぁ?
オレは痕跡が残らないように僧正を殺した。
近づいただけで、一分吸っただけで死んでしまう毒をお香代わりに持っていたから、あっさりと殺せた。
僧正は苦しむ顔を見せたが、声をあげる間もなく息絶えた。
ヨナルデパズトーリに関するデータの布石となるものを全て消す。
そこでデクスターと再会して、デクスターはオレに任せると告げて、ついてきてくれた。
二人で政府の情報を得るために、犬になりすます計画をする。
心臓への呪いは、オレが殺した僧正と手術医しかできなかったようなので、オレはその二人を殺したらあとは満足して、大人しく入れ墨を彫る。なりすますには、同じく対策が打たれているふりをするのが、油断されやすくて便利だった。
実際は対策なんてもうされてねぇけどな。
僧正を殺した奴も特定できねぇ無能ばかりで、笑いが出そうになった。
政府の狗にならなきゃ、御劔に関する何かを、誰かが集めたとき消せないからな。
オレは本当の、御劔の懐刀になるべく努力した――。
それから、寿に出会って――さぁ、それから今日だ。




