第十二話 綺麗ごととは
二見はようやく眠ってくれて、オレと巡だけが起きていた。
巡はオレに対して警戒というより、親しくなるのに怖がって近づきたくない様子だった。
二見はずっとオレに笑顔を見せ続け、その度に巡へ「治ったかな」って問いかけてきた。
本気にしているらしい、笑顔でどうにかできると。
いや、それよりもまず――笑顔がどうのこうのじゃなく、オレを気遣っているんだ。
眠らせるのも一苦労した。
二見は逆にオレといる間はずっと起きていたい、とむちゃくちゃなことを言い出したから、流石に寝ろと窘めた。
オレが寝ても二見は、巡曰くずっと起きていてオレを見守っていたらしい。
「何だか、ここまでふみが懐くの初めて」
巡の口調は何処か穏やかで、オレに対して警戒心を少しだけ解いてもいいよ、と示すかの口調だった。
オレは首をこきりこきりと鳴らして、眠る二見を見つめる。
――てんでガキのくせに、気遣いだけは超一流ときてる。
こいつの言い分は、何もかもが今はオレ中心で、本気でオレを天女にしようとしているのだと思い知る。
それほどに、愛されているのだと。
「子犬ちゃんはふみのこと好き?」
「……――何でそんなこと聞くんだ」
オレには選択肢がないって知っているのに。
「心からふみを好きな人にいつか会えたら、嬉しいから。僕とふみは二人で一つだしぃ」
「……なら余計に聞くな」
その質問は二見にとっては残酷だと、暗に示す。
オレには、綾様がいると。
巡はかちんとした様子で、オレを睨み付ける。
「嫌な奴ぅ。……でもそういうところなんだろうな、ふみが子犬ちゃんを好きになったところって。そうやって何もかも隠さないところ、綺麗事で誤魔化さないところ」
「……――綺麗事言うときだってあるぜ?」
「ううん、子犬ちゃんはきっとそうやって言わないよ。言うときはよっぽど切羽詰まってるか、本気で願ってるときだ」
「本気で願っていたら、どーすんだよ」
「めぐはふみの願いを叶える為にいるから……ふみのしたいようにさせるよ、子犬ちゃんを邪魔してもね」
「あっそ」
オレが巫山戯て適当に応えると、巡はきょとんとしてから、微苦笑を浮かべた。
その後に二見が寝ぼけてオレの言葉に反応して、「あ、そう……」とか真似みたいな寝言を呟いたもんだから、二人でげらげらと笑った。
――何だ、この暖かな気持ち?
何故、こんなにも満たされていく?
「――テメェらは昔に何があったんだ? ただの人間嫌いってわけじゃなさそうだ」
「ゴミツ見てれば判ると思うけれど、僕らも最初は神様だったんだよね。でも、人間が邪魔だーって鬱陶しがって、今じゃ化け物扱いだ。毛嫌いされて、畏怖されてる」
「……それだけじゃないんだろ? 二見の懐き方は、昔仲良かった友人に対するもののようだ」
オレが問いかけると、巡は俯いて膝を抱える。
膝を抱えて、眠る二見の頬をむにっと引っ張って、微苦笑する。
「僕には判らない。僕は、二見の代理品みたいなものだから」
「馬鹿、テメェはテメェで、二見は二見だろ」
「じゃあ子犬ちゃんは二見じゃなく、僕を愛してよって言ったら僕を愛せる? ――無理だよ」
まるでオレがもう二見に恋してるような言い分だな。
からかってやろうかと思ったら、真面目な顔で睨み付けられたので、肩を竦める。
「それならせめて、二人を守りたい」
何だか何処かで見たような思い――嗚呼、オレから綾様に対する思いのようだ。
兄貴と綾様を見つめて思う気持ち。まるで呪いのように、巡に伝わってしまったのか。
此処で巡を撫でることのほうがかえって残酷だと思ったので、オレは何も言わなかった。
否定することでさえしてやりゃあいいのにな。




